研究課題/領域番号 |
24653123
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研究機関 | 札幌大谷大学 |
研究代表者 |
西脇 裕之 札幌大谷大学, 社会学部, 准教授 (00254730)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アーキテクチャ |
研究概要 |
管理表示と管理放送を環境と身体との相互作用という視点から把握する枠組を構築するために、生態学的アプローチ、アーキテクチャ論、リバタリアン・パターナリズムなど、人文科学や社会科学の諸分野における、環境設計を通じた人びとの行動の制御に関する文献を渉猟した。これを通じて、特定の行為を潜在的に許可するアフォーダンス、特定の行為を当事者の利益のために規制するパターナリズム、その行為の可能性を意識させずに規制するアーキテクチャ、という3つのキーワードの相互関係を中心に、仮説的な枠組を構築した。 管理表示・管理放送の特徴やそれらが都市環境に氾濫する理由、効果上の問題点を上記の枠組に位置づけて記述・説明することを試みた。管理表示・管理放送のメッセージ量の膨大さに対して人びとがそれを認知する意味内容の希薄さは際立っている。この点に注目して、管理者が利用者の意図を察して代弁してあげるという優しさとしてのパターナリズム説に代えて、利用者が求めているのはメッセージが自分に向けられているというコミュニケーションの形式それ自体、つまり儀礼であるという相互行為儀礼説を提示した。 管理表示・管理放送のメッセージは規範に相当するが、規範が有効に機能するには人びとの認知・理解を経由する必要がある。しかし、利用者がそこに儀礼的な価値しか見出していないために、意味内容は十分に認知されず、従って効果が上がらないこと。ただし、身体レベルで自然に定型的な行動をとるように誘導されるという点ではアーキテクチャに通じる特性も備えていること。これらの成果を「公共空間における管理放送と管理表示に関する一考察」という論文にまとめた。 また、札幌市営地下鉄の東区役所前駅を調査地として、管理表示の設置と管理放送の実施についての実態調査を行った。設置された管理表示を全て撮影し、エスカレーターなどで流されている管理放送の状況を録画した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一の目的は、生態学的アプローチやアーキテクチャ論についての知見を踏まえて、管理表示と管理放送を環境と身体との相互作用という視点から把握する枠組を構築することである。これについては関連する文献の調査を通して、アフォーダンス、パターナリズム、アーキテクチャという3つのキーワードを中核的な概念とする仮説的な枠組を構築した。 また、従来から指摘されてきた管理表示・管理放送が増える理由、その効果上の問題点を、この枠組にもとづいて記述・説明し直すことができた。この枠組そのものは、今後の意識調査の結果を踏まえて再検討していく余地をまだ残しているが、ここまでの成果を論文にまとめて公表している。特にその論文中で、従来のパターナリズム説に代えて提示した相互行為儀礼説は、管理表示・管理放送のメッセージ量の膨大さに対するその意味内容についての人びとの認知度の希薄さという実態をうまく説明しえていると考える。 管理表示と管理放送の設置・実施についての実態調査を、札幌市交通局の許可を得て、札幌市営地下鉄東区役所前駅の構内をフィールドとして実施した。収集した管理表示・管理放送データについてはその内容分析を行なっている最中であるが、管理表示・管理放送の増殖状況についてはこの実態調査でも確認できており、たとえば、駅構内のエスカレーターに設置された管理表示は明らかに増えていた。これらの管理表示と管理放送の効果については、今後の意識調査によって明らかにしていくことになる。 コミュニケーションからアーキテクチャへという管理誘導の手法の変化の確認、望ましい誘導・管理のあり方についての提言についても、当初の計画通り25年度の意識調査の結果を踏まえて考察する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず管理表示・管理放送の実態調査で収集したデータの内容分析を終える。その上で収集した写真・映像データのいくつかを提示した質問紙を作成し、管理表示と管理放送についての一般市民の意識を把握するための調査を行う。管理表示や管理放送は一種のナビゲーション情報であるが、それらが情報としてその意味内容がどれだけ認知されているのか、またそれらの情報の必要性や効果、環境アメニティ上の問題点についてどう考えているか、などが主な調査項目となる。 また、質問紙調査では、合わせて、当事者の利益のために規制するパターナリズムや、理解を経由せずに物理的に行為の可能性を規制してしまうアーキテクチャの手法について、どう考えるかという点を聞き出す。この点は、管理誘導の手法がコミュニケーションからアーキテクチャへ変化していくのかどうか今後の方向性を確認し、望ましい誘導・管理のあり方について考察していく上で重要である。 意識調査の結果を踏まえて、管理表示・管理放送の現状についての改善案を検討し、望ましい誘導・管理のあり方についての提言をまとめる予定である。 なお、交付申請時点では管理表示・管理放送を設置する管理者側への聞き取り調査を、管理者側と利用者側の意識のギャップをクローズアップする方向で行う予定であった。しかし、問題点を提示するというよりも、新たな可能性をともに探求するという立場からの聞き取りを可能であれば実施する。管理表示・管理放送の効果を確認し、それらに代替する管理誘導の手法としてアーキテクチャの可能性について検討し、望ましい誘導・管理のあり方を提言するという本研究の目的に照らして、そのようなスタンスが好ましいと判断する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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