管理表示と管理放送が増加する原因を探るために、環境と身体との相互作用という視点から、特定の行為を潜在的に許可する環境特性としてのアフォーダンス、当事者の利益のために行為を代行するパターナリズム、行為の可能性を意識させずに規制するアーキテクチャ、を中心とした理論枠組を構築した。この枠組に基づき管理表示・放送の増加を説明する仮説として、管理表示・放送を人びとの表明されない意思を察して代弁したものと捉えるパターナリズム要求説、管理表示・放送が自分に向けて発信されている形式に配慮・敬意という儀礼的な価値を認める相互行為儀礼説を導き出した。 管理表示の設置状況と管理放送の実態を把握するために、札幌市地下鉄の東区役所前駅での分布調査を行った。 上記の仮説を検証するべく、札幌市内の大学生を対象に管理表示・放送についての認知・評価・効果に関する意識調査を行った。その結果、(1)管理表示・放送一般の存在については十分に認知し、現状を肯定的に評価し、意識啓発の効果や多数の人びとへの伝達の効率性という点からその必要性を認めながら、具体的な個々のメッセージの存在や意味内容についての認知は必ずしも高くない、という矛盾した意識が確認できた。(2)管理表示・放送の必要性の評価結果から、パターナリズム要求説は支持されたが、相互行為儀礼説は支持されたとは言えなかった。(3)注意喚起や行動の変更などの効果については特に意識はしないがその指示に従ってしまうという回答が多く、管理表示・放送の効果のメカニズムが人びとの意識の上ではアーキテクチャによる環境管理に近いことが示唆された。 改善への提言として、言葉による伝達-説得型コミュニケーションを強化するのではなく、管理表示については視覚的デザインへの転換、管理放送についてはアーキテクチャによる半ば無意識的な誘導などの代替手段を検討する余地があることが示唆された。
|