当初の研究目的で記した「地域コミュニティ次元で存在する伝統文書および非文書の口述資料を掘り起し、長年の『生活の共同』に根ざす民衆知/民俗知、とりわけ地震、津波等非日常時におけるそれらの構造を解明する」点に関して、研究代表者の吉原は、会津若松市に避難している大熊町民に対して数次にわたるヒヤリングを実施し、その成果をファイリングし、メンバー間で共有している。また分担者の松本は相双地区の楢葉、富岡町等の住民に対して同様のヒヤリングをおこない、その成果を別記「研究発表」の刊行物に反映させている。さらに分担者の長谷部は相馬市に対して同様のヒヤリングを実施し、多くの成果を得ている。 なお、上記研究目的を達成するためにインドネシア・バリ島もフィールドに据えていたが、実際には現地調査を実施するまでには至らなかった。ただ、前回の科研費基盤B・海外学術調査(「アジアメガシティの多層化するモビリティとコミュニティの動態に関する経験的研究」)の成果の一部として刊行した『バリ島に生きる古文書―ロンタール文書のすがた』を上記研究目的の下に再解読をおこない、知見の豊富化につとめた。 以上の研究を通して、テーマ(震災に関する民俗知/民衆知の応用可能性の探究)はより人々の生活世界に根ざす具体的なものになるとともに、テーマに関する国際的な比較共同研究への一つの道標が記されたと考えられる。
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