研究課題/領域番号 |
24653140
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
本村 真 琉球大学, 法文学部, 准教授 (30274880)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | スペイン / 児童虐待予防 / NPO活動 / 島嶼性・辺境性 |
研究概要 |
島嶼性と辺境性をもつ沖縄県における児童虐待の発生予防に有効な、新しい「地域」の創造のために、今年度はまずスペインの同様の地域特性をもつカナリア諸島を訪問し、島嶼・辺境性をもつ地域の児童虐待の特徴や、児童虐待を予防しうる具体的なアプローチ方法について情報収集を行った。その際、基盤的な研究ネットワークとして、バルセロナ自治大学の研究グループである「Childhood, Family and Comparative Social Policy」(代表:Lluis Flaquer社会学部教授)との研究協力関係を強化することができた。 カナリア諸島における現地調査等の結果では、基本的に本土よりも親族間のつながりが強いが、食生活や食文化の「乱れ」も有するネグレクトの子どもたちへの影響が大きい可能性が示唆された。そのような状況への対応として、Aldeas Infantiles Gran Canariaの実践は一つのモデルとなる。このNPO実践では、島嶼という限定された地域内の専門機関どうしの緊密な関係を基にしたNPOと公的機関の協働がなされ、同一のNPOが予防サービスや保護サービス、家庭復帰サービス等をすべて提供することでの効果を発揮している。サービスの中にエコロジカルな視点も加えた自然教育等も活用しながら展開している点も特徴の一つであった。この実践に関しては日本児童養護実践学会において発表した。 このような現地調査等を経て、改めて「地域」や「予防システム」を支える「人」の重要性が浮き彫りとなった。特に児童虐待分野ではかかわる人材がバーンアウトとなる可能性も高く、そのような人材をどのようにサポートするかが重要な課題である。この解決のための一つの方法として、TRE(Trauma Release Exercises)の有効性に着目し、具体的技法やその効果等について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに長期のスペイン滞在を実施することで児童虐待対策を含めた児童福祉サービスの概要やNPOの活動実態等について情報収集することができ、その際に基盤的な研究ネットワークとして、バルセロナ自治大学の研究グループである「Childhood, Family and Comparative Social Policy」(代表:Lluís Flaquer社会学部教授)との研究協力関係を強化することができた。 研究テーマである「島嶼性と辺境性」を有するカナリア諸島で効果的なサービスを展開するAldeas Infantilesは、世界130カ国近くで活動を展開する世界規模のNPOであるが、そのGran Canariaでの実践のみでなく、同国における長期滞在を通してBarcelona近郊やGarcia自治州などのスペイン本土の同NPOの活動と比較することで、その特徴をさらに理解することができた。 日本と比較すると、全国的あるいは各自治体単位での児童問題等に関する統計システムが十分に整備されておらず、また、「児童虐待」自体に対する関心や取り組みについて各自治体で差があること、また専門機関によっては「児童虐待」がセンシティブなテーマであり情報収集が難しい等の実情によって、統計データの年次経過の比較等を含めてその達成が難しい項目が複数あるが、メインテーマである「島嶼性と辺境性」を有する地域に関する部分については、上記の理由で達成が難しい項目以外を除き、おおむね順調に進展している。 また、島嶼性と辺境性をもつ沖縄県における具体的な活動を検討していく上で、それにかかわる「人」をどのように支援していくかは、専門家が相対的に不足しがちな地域特性からも重要となり、その意味で、そのサポートとして有効と考えられるTREについての調査研究を開始できたことの意義は大きいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、日本国内における実態調査を実施し、島嶼性と辺境性を有する地域の児童虐待に関する特徴についての理解を深める。具体的には、国内の沖縄県以外の島嶼・辺境地域における現地調査を予定しており、児童相談所等関連機関職員や大学教員等の専門家のみでなく、一般市民への聞き取り等も適宜実施することで、児童虐待の現状について調査する。加えて、親族やそれ以外の近隣住民による子育てへの参加状況、地域における子育て支援サービス、地域行事への参加状況等の推移に関する情報を収集することで地域社会のつながりの推移も把握し、NPOの実践活動等を含めた児童虐待予防に有効と考えられる活動等に関する情報の収集もはかる。 スペインにおける補足調査(カナリア諸島等における)も実施し、児童福祉サービスの専門家やNPO職員、その他一般市民への聞き取り等も適宜行い、日本の同様の地域との類似性あるいは日本・沖縄の特殊性等を明らかにする情報の収集をはかる。 児童虐待の発生予防に有効な、新しい「地域」の創造のカギとなる「人」をどのようにサポートするかの具体的方策の研究も今年度の柱となり、昨年度すでに検討を開始したTREに関して、研究者自身によるその実践を通した具体的な検証研究へと発展させるための基盤として、その資格取得も目的に含めたワークショップへの参加等による情報収集を継続する。 研究の総括として、島嶼・辺境地域特有の共通点と、沖縄独自の問題点の特定をはかる。その上で、国内外の調査対象地における先駆的な実践の中から沖縄県においても有効であり得る実践を選別し、上記の沖縄独自の問題点克服の視点を加味して再検討し、沖縄の実情に見合ったこ新しい「地域」の創造に向けた具体的対策の検討を行う。その際、専門家が相対的に不足しがちな地域特性からも重要となる、そのような地域を支える「人」への支援の重要性についても視野に含めた検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内現地調査費用等(400千円) 海外現地調査費用等(300千円) その他(ワークショップ参加費など)(200千円)
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