研究課題/領域番号 |
24653151
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
山田 裕子 同志社大学, 社会学部, 教授 (80278457)
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研究分担者 |
武地 一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10314197)
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キーワード | 初期認知症 / MCI / 家族との相互作用 / 友好的会話 / 感情の表出 / BPSD |
研究概要 |
本研究の目的はMCI(軽度認知症) および初期認知症の患者の感情の、BPSD および認知機能との関係を探ることである。行動範囲の狭小化や社会生活の矮小化、さらに家族との関係悪化で、日常的に他者の「敵対的」な言動にさらされることの多いMCI 及び初期認知症の患者は友好的な会話環境では自尊感情やポジティヴな感情表出機会の増加がみられることを想定し、そのBPSD と認知機能への影響を測り、BPSDの生起するメカニズムを立証しようとするものである。 本年度は2年目であり、昨年度の準備と試行により当初計画した友好的会話環境の設定と持続の難しさが明らかとなり、次善の環境を見つけ、①MCI および初期認知症の患者と家族の日常的な相互作用を観察確認する方法、②友好的な会話や相互作用によるポジティヴな感情をどのように把握するかを考慮、吟味した。①の方法の第1は『Oカフェ今出川』の中で展開される友好的会話環境、第2は初期認知症の人の家庭(又は希望の場所)を2人のソーシャルワーカーが訪問し提供する友好的会話環境である。②のポジティヴな感情の把握と分析のための方法として、プロセスレコード手法を用いて認知症の人とその家族にポジティヴな感情がどのように起きたかを検討することとである。対象として、オレンジカフェからは3例取り上げた。家庭訪問は現在3組の初期認知症の人と家族に3~4回ずつ行い、データを蓄積中である。得られたデータは、析の適切さを判断し、信頼性を保持するために研究者チーム4人で議論を行っている。 これまでの友好的環境の提供の実行から、認知症本人のBPSDの改善と認められる行動変容を確認し、それに先立つ家族の認知症状への理解や、家族の不安の改善などが伴っていたことも認めた。いずれの本人と家族の主観的なwell-beingは向上している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2年目である今年度は順調に推移したが、初年度に、ポジティヴな感情を引き起こすための「友好的な会話や相互作用」が提供される環境という物理的な場所の確保と「友好的な会話や相互作用」を提供するスタッフの技術の準備に時間が必要だったために遅れた分を完全に取り戻すことはできなかった。 しかし、準備の間に、『Oカフェ今出川』を開始し、調査参加者ではない客である認知症の人と家族にも毎週関わり、初期の認知症やMCIの人が感じるもの忘れすることへの絶望的な感情や、日常生活で生じる家族との軋轢や葛藤について、本人と家族の双方から話を聞き、双方の心理的なトラウマや困難と、その相互作用を学び、友好的な会話を提供する技術を習得することができた。申請時にはそのような準備にいかに時間と労力が必要かは認識できていなかったので、今から考えれば、その1年間の時間的な遅れは当然必要な時間であった。この遅れは、当初の計画が未熟であったためで、研究自体は、準備段階を適切に経たがために、当初の目的を達成するための「友好的な会話や相互作用」が提供される環境と、友好的な会話や相互作用を提供するに必要な熟練したソーシャルワーカーの育成が果たされた。 やや遅れてはいるが、納得のゆく「友好的会話環境」と「友好的会話」を提供できているので、実質的な効果を生んでおり、参加者のリクルートも順調である。
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今後の研究の推進方策 |
今、研究はまさに佳境に入っており、毎週訪問で行う介入と、カフェの客に行う介入の効果を地道に観察し、データを取得している。今後さらにケースを増やし、属性において多様性を増すことを計画している。現在家庭訪問による感情表出介入の参加者は女性ばかりであるが、男性の認知症のケースをリクルートし、属性間の比較を行うことを目指している。最近、メディアで認知症が取り上げられることが多いが、実際に家族介護者はそのような情報を受け取りはするものの、日常生活に効果的に生かすことは、容易にできるものではなく、また家族だけでできるとは言い難く、このような介入が、当初目指した感情表出という目的に留まらず、初期集中支援チームのような様相を帯びていることが感じられる。 認知症の人とその家族は、友好的な会話環境の中で、不安やストレスを解消してゆくことが見受けられ、このような介入をどのように伝達可能な技術として構成してゆくか、今年の研究としたい。本人も家族も、認知症という病気への見方や態度をどのようにもっとポジティヴに、また了解可能で、共に生きて行けるものとしてゆけるか、認知症ケアをめぐる多くの謎や未知の問題の解明への道筋が見つかることを期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画通り、執行した結果、残高が生じた。 残高は、今年度の技術補助への謝金と物品の購入に用いる。
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