日本のアートセラピーは1960年代より精神医療の分野で発達してきた。しかし、近年では子育て支援・認知症の予防・自分らしい生き方の追求・QOLの向上などを目的としたものの増加が著しい。本研究はその担い手であるアートセラピスト(以下AT)の活動の有効性・必要性に着目し、その拡がり方・活動領域・内容・水準・課題について全国実態調査を行い、継続的発展の可能性を追究した。 24年度に予備調査、25年度にアンケート調査を実施した。調査票配布数は975件(うち宛先不明・非該当など無効95件)、回答数240件である。さらにアンケート調査を基に25-26年度にかけて事例調査を実施し、分析を行った。調査数は27件、沖縄を除く全国9エリアで行った(うち14件で参与観察を実施)。 その結果、①全国の人口分布にほぼ比例してATが存在し、市井ATの活動の有効性・必要性はどの地域でも確認できた。②活動分野は保健・医療、福祉、教育、能力開発にわたっている。③各分野で活動が内発的に発生し、既存の制度や方法に捉われず自律的に展開している。④アートセラピーの認知度・需要度は年々上昇しているが活動の場は少なく、活動を保障する制度や枠組がないため、資金や人材など経営資源の確保が不安定で、ボランティアベースの運営である。⑤一部に粗悪な活動も存在する。 以上から、市井のATの多くが地域福祉を支える社会起業家・市民活動家としての側面を強くもつ点が分析できた。また活動内容は人間の潜在的な生命力・生活力を引き出し支援するものなので、セラピー(治療)というよりも「エンパワメント」と定義し得る。 今後エンパワメント型アートセラピーが自律的で多様なあり方を維持しつつ、一定の質を保ちながら持続的に展開することが期待される。そのためには体系的な運営モデルの構築と、活動の内容・質を判断できる指標と評価基準の策定が急務であると結論できる。
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