研究課題/領域番号 |
24653161
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 伸幸 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (80333582)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 社会系心理学 / 社会的交換 / ゲーム理論 |
研究概要 |
非血縁間でも大規模な相互協力を達成可能であることは、他の種と比較したホモ・サピエンスの社会の特徴であり、様々な学問領域で中心的な研究テーマとして取り上げられてきた。そのようなこれまでの研究のほとんどは、それぞれ特定の状況を設定し、そこで相互協力がいかに達成されるかを扱ってきた。これに対し近年、人間は実際には同時に複数の状況に埋め込まれており、他の状況と相互に独立した個別の状況ではなく、相互依存性のある複数の状況のセットを分析すべきだという指摘がなされるようになった。先行研究に倣い、状況間が独立ではなくなることを本研究でも「連結」と呼ぶことにする(Aoki, 2001)。しかし、連結がどのような心理メカニズムで可能となるのかは、未だ明らかになっていない。そこで24年度は、まず予備的な研究として場面想定法質問紙実験を行った。具体的には、一般交換、限定交換、信頼ゲーム等の様々なゲーム状況と社会的ジレンマ(SD)のセットについて、それらを想起させるシナリオを作成し、実際に人々が連結を示すかどうかを探索的に検討した。その結果、強制的プレイPDゲームと一般交換ゲームでは連結が見られた。また、連結は相手の行動予測やその他の複数の心理的要因によって影響されることも示唆された。そこで次に、実験室実験を行った。古典的ゲーム理論に基づくAoki (2001)は、SD非提供者には社会的交換において非協力するということが共有信念として存在している場合、合理的な推論の結果として実際にそのような連結がナッシュ均衡となることを示した。しかし、通常人間がそのような複雑な推論を行っているとは考えられないため、そのような共有信念をブロックしても連結が生じるかどうかを、SDとPDを繰り返すという実験を用いて検討した。その結果はやはり、共有信念をブロックしてもなお、連結がはっきりと示されるというものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連結を引き起こす心理メカニズムを同定することが本研究の目的であるが、それに向かって着実に前進した。実証データにより、ゲーム理論で想定されるような先読みの計算は必要条件ではなく、相手の行動予測や印象評定が心理メカニズムの候補として浮上した。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、連結を引き起こす心理メカニズムの特定を目指す。まず、相手に対する印象を形成することにより連結が生じるのかどうかを検討する実験室実験を行う。印象形成を行うためには、対象人物の過去の行動を内的属性に帰属する必要があるはずである。よって、SD行動を内的に帰属可能かどうかを操作して実験を行う。もしこの実験の結果、印象形成により連結が引き起こされることが示されれば、24年度の研究と合わせて、少なくとも2つの心理メカニズムが存在することが明らかになる。ただし、これが当てはまるのは、現状ではSDとPDの連結の場合に限られる。そこで、次に他の状況との連結の場合に同様の2つの心理メカニズムが機能するのか、あるいは別な心理メカニズムがあるのかを検討する質問紙ないしは実験研究を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は場面想定法質問紙実験の実施と分析に予想以上に時間がかかった。その後に行った実験室実験は、実験状況を確定するまでは予定よりも時間がかかったが、実施自体は予定よりも実験参加者数で終了することができた。そのため、当初予定していたが使用しなかった予算がある。これは25年度に、24年度の実験結果から得られた知見に基づいて準備していたSD行動を内的に帰属可能かどうかを操作する実験を行うために用いる予定である。
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