研究実績の概要 |
非血縁感でも大規模な相互協力を達成可能であることは、人間社会の特徴であり、様々な学問領域で中心的な研究課題として取り上げられてきた。そのような研究のほとんどは、それぞれ特定の状況を設定し、そこで相互協力がいかに達成されるかを扱ってきた。それに対し近年、人間は実際には同時に複数の状況に埋め込まれており、相互に独立した複数の個別の状況ではなく、相互依存性のある複数の状況のセットを分析対象とすべきだという指摘がなされるようになった。先行研究にならい、複数の状況間が独立ではなくなることを本研究でも「連結」と呼ぶことにする(Aoki, 2001)。しかし、連結がどのような心理メカニズムで可能となるのかは、未だ明らかになっていない。24~25年度は、連結が存在しているという共有信念をブロックする実験を行い、それでもなお連結が生じることを示した。更に、同じ協力行動でも内的属性の推測が可能かどうかを操作した実験を行い、内的属性の推測が連結を引き起こすことを示した。このことは、ゲーム理論で想定されているような先読みの合理計算は必要条件ではなく、人々の連結実装メカニズムは相手の行動予測や印象評定であることが明らかとなった。以上の研究において主に扱われてきたのは社会的ジレンマ(SD)と直接交換(DE)の間の連結である。しかし、社会には様々な状況が存在しており、どの状況間で連結が生じるのかは不明である。そこで26年度は、実証研究を行う前段階として、理論的にどのような状況のペアにおいて連結が生じるのかを明らかにするシミュレーションを行った。その結果、SDと一般交換(GE)の間では、先行研究とは異なるものの、連結が均衡となり得ることが示されたが、SDとDEの間では均衡とはならないことが明らかになった。この結果は、実証データとは不整合であり、今後の研究課題として残された。
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