研究課題/領域番号 |
24653163
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
唐沢 かおり 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (50249348)
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研究分担者 |
戸田山 和久 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (90217513)
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キーワード | 自由意思 / 構成概念 / フォークサイコロジー |
研究概要 |
1)社会心理学研究における概念の役割とフォークサイコロジー 社会心理学研究の中で、心の機能に言及する構成概念がどのような役割を果たしているのかについて、脳内過程、動機、感情、潜在的態度、パーソナリティに着目し分析を加えたうえで、対人間関係、集団メンバーシップ、文化など、より上位のレベルの概念との関係について、検討した。それに基づき、社会心理学は学問そのもののパラダイムとして、それらの概念を操作レベルに落とした変数が重層的に存在することに特徴があり、また、それらの変数の関連付けという性質を持つことを示したうえで、その関連づけにかかわる仮説の検討にフォークサイコロジーが侵入する可能性、また、適応概念により、それらの概念間の関係が正当化される現状と、俗的な進化論に基づくフォークサイコロジーに、知見が吸収される危険が学問内に存在することを議論した。 2)自由意思にかかわる実験的検討とフォークサイコロジカルな信念測定に向けての調査 自己制御過程に影響を与えることが論じられている「自由意思信念」に着目し、それに関する信念操作の効果の実験的検討、および自由意思信念を測定するための尺度開発のための調査研究を行った。尺度については欧米で同定されているものとほぼ同じ下位次元が、日本人学生および一般成人を対象に同定された。しかしながら、自由意思信念の対極をなす「決定論的信念」については、十全な概念化や測定尺度の開発が不十分であるという問題点が今後の課題として明らかとなった。この問題は、実験的検討において、自由意思信念の操作と測定が、真に自由意思の有無に関するフォークな信念の操作となり得てはいないことを示唆する。したがって、実証的研究において、概念と操作の齟齬が生じており、決定論的信念との関係で改めて「自由意思信念」を再考する必要が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
社会心理学における概念の役割とフォークサイコロジーとの関係については、一定の議論と考察を得ることができ、その成果を公刊するところに至っている。しかし、自由意思を手掛かりとした、社会心理学研究とフォークサイコロジーとの関係については、フォークな信念を測定する尺度開発には至っているものの、尺度の「改善」に向けて今後の研究が必要な状態である。また実験的検討についても、問題点の同定はなされているが、フォークサイコロジーの中に含まれている、自由意思や決定論的信念に関するフォークな理論と、理論を記述する「言葉」の意味の問題を、分析的に考察する課題があらたに生じている。
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今後の研究の推進方策 |
自由意思に着目した実験的検討、および理論的考察を引き続き行うことにより、フォークサイコロジー内の理論と言葉の意味との関係を分析することを行っていく。また、尺度については「決定論的信念」に着目した尺度構成を進めることで、現在の尺度の問題点を保管した包括的な尺度を作成し、フォークな信念を記述するための尺度開発に必要とされる論点整理というメタレベルの議論に進むことを目指す。 さらに、残された課題として、他者の心の推論についてのフォークな理論を整理し、社会心理学の提供する「心の機能」に関する理論と対比的に考察することに着手し、フォークサイコロジーの混入がもたらす問題の明確化と、それに対応するための実践的な方法論の構築にかかわる議論を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、インターネット調査を用いた尺度構成に関する調査を当該年度後半に計画しており、その費用見積もりが高額であったため、年度前半の研究に要した費用の一部は校費を用いて実施した。一方、パイロット調査に用いた大学生対象の調査結果の検討の結果、質問項目数を絞ったうえでの調査がまずは必要であるという結論を得た。したがって、他の調査研究の質問紙とまとめての調査実施が可能になり、当初のインターネット調査に予定していた費用を当該年度に使用することなく次年度に用いる計画とした。 延期したインターネット調査の実施、実験的検討に必要な費用(参加者謝金等)、学会でのワークショップ、シンポジウムにかかわる費用として使用する計画である。
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