研究課題/領域番号 |
24653163
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
唐沢 かおり 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (50249348)
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研究分担者 |
戸田山 和久 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (90217513)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 通俗的信念 / 尺度構成 / 自由意志 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、フォークな概念、とりわけ心的機構を構成する概念を心理学研究に導入する条件について検討を行った。とりわけ、日常的な他者理解に用いられている通俗的概念であると同時に、社会心理学においては「学術用語」として定義され、心的過程に関するモデル内にしばしば用いられるような概念を中心に検討した。 その議論の中において、改めて概念の操作可能性が重要な条件となることを確認した。これについては、メカニズムに関する議論においては、構成概念が何らかの「実体性」を持つことが必須であり、「操作により変動する」ことが、その用件を満たすからである。また、測定可能性については、尺度構成における諸問題が発生することを確認した。この議論に基づき、人々のフォークな概念理解を基盤にした態度測定尺度が、その概念の内容を定めることについて果たす役割について、基本的な尺度を中心に検討を行った。そこで明らかになったことは、尺度作成や尺度の使用に一定の恣意性が見られること、その恣意性は、ともすれば科学的厳密さや客観性を損なうこと、しかし、それにもかかわらず、一定のデータや使用例の集約とメタ分析的な議論が、その問題への実際的対応となりえることを議論した。 その上で、実践的検討として、自由意志概念をターゲットとして、哲学的議論と、社会心理学での議論の差異、さらには、実験哲学的な検討の功罪について、議論を進めた。 加えて、そのなかで自由意志信念尺度を構成するためのデータ収集を行い、既存の尺度の翻訳版の作成とともに、新たな概念分析に基づき、新尺度提案のためのパイロットデータ収集を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フォークサイコロジーに依拠した際の問題点について、測定に際しての問題、およびそれに関連して、尺度構成とそれの実証研究への使用という新たな観点から、議論を展開し、その功罪についての論点を示した。また、そこにおいて、測定尺度の構成がフォークサイコロジーから出発しつつ、それと逸脱する知見を得たときの対応について、事例検討を元に、望まれるべき対応についての考察を行った。 一方、平行して進めている実践的研究である、自由意志尺度構成研究においては、過去の知見との矛盾など、更なるデータ収集が必要となる結果を得ており、下位概念の再検討と、他の変数との関連の検討を進めたうえで、矛盾点を解決する研究を進めることが課題と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
自由意志概念の検討と尺度構成については、データ収集を速やかに進めるとともに、分析に基づいた成果の発表を目指す。それにあたっては、研究会や学会ワークショップ等での発表をおこないつつ、哲学関連領域の研究者の指摘を取り入れることで、フォークサイコロジーのみに依拠した尺度から離れ、汎用性のある尺度構成を試みる。 また、自由意志を手がかりとした検討やこれまでの議論を集約し、フォークな概念構築の問題点を指摘する議論を生成し、フォークサイコロジーの健全な利用として概念工学的な発想を導入しつつ、研究成果をまとめることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に実施した通俗的な信念にかかわる調査のうち、自由意志概念を中心とした学生対象のものについて、過去の知見と不整合な結果が得られたので、質問項目を精査した上で再度の調査を行った。本来なら、学生対象の調査結果を踏まえて成人対象の調査を実施する予定であったが、項目の検討と再調査に期間を要したため、成人対象の調査とそれに基づく考察、および成果の発表と関連領域からのフィードバックによる精緻化のプロセスを延期し、次年度実施とした。
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次年度使用額の使用計画 |
一般成人を対象としたインターネット調査および、その分析に必要な経費、学会発表に必要な旅費に使用することを計画している。
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