研究課題/領域番号 |
24653164
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高橋 晋也 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (70260586)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 色彩効用 / 環境色彩 / プレザントネス |
研究概要 |
研究計画に則り色照明実験を実施するにあたり、LEDカラー照明器具一式(Panasonic製)を導入した。これを現有の色照明実験室に設置し、様々な認知課題を試行した予備実験を通じ、最終的にstop signal課題を採用した。これは、単純な弁別反応課題に偶発性の反応抑制規則を組み合わせた課題で、課題遂行者の衝動抑制を検討することができる。また、これとは別に、従来行ってきた画像処理刺激を用いた評価実験として、食べ物(麺類)の器の色を条件操作した視覚評価実験を行った。色による温度感評定と食べ物の視覚的美味しさ評定との関連が見られたが、視覚的プレザントネスの関与を伺わせる特異な傾向は認められなかった。 さらに、近年多く研究されている赤色の文脈依存性効果について、2課題を用いて検討した。そのうち対人魅力評価課題については、人物写真を観察する際の背景文脈に依存した促進効果を確認した。また知的推論課題については、課題成績のネガティブフィードバックにより遂行者の課題不安を高めた場合に、従来いわれていた抑制効果とは逆の、課題遂行促進効果が見られた。後者については、欧米とは異なる日本(もしくはアジア圏)固有の色特異連想による関与が示唆され、今後さらに研究を継続するとともに、平成25年度にその成果を国際学会で発表する予定にしている。 また、生活環境色の現地調査のための国内出張(東京)を行い、JR山手線の各駅ホームに設置されている自殺防止用の青色LED照明や、足立区六町の青色防犯タワーを視察した。さらに、Chinese Culture University(台北市)で開催された国際色彩学会に参加し、研究発表(演題 Color preference style for twelve tones in the Practical Color Co-ordinate System)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は、LEDカラー照明を用いた色照明実験を中心に研究を進める予定でいたが、受注品である当該照明器具の納品および結線工事に予想外に時間がかかったため、この部分でのプロジェクト進捗に遅れが生じた。それでも効率的に予備実験を行い、本実験の中心課題として用いるstop signal課題の実施準備を、何とか年度内に終えることができた。当初計画からすると数ヶ月の遅れが出ているが、平成25年度序盤に集中的に取り組むことで挽回したい。 一方、上記の想定外事態への対処として、LED照明が使用可能になるまでの期間に急遽計画した幾つかのプロジェクトを通じ、思った以上の成果が得られた。とくに、達成文脈における赤色の抑制効果(知能検査課題における成績低下など)については、これまで主に欧米で報告されてきた影響とは正反対の促進効果が見出され、当該の効果における文化的要因の関与が示唆された。この成果については、効果の頑健性の確認と、関連要因の探究をさらに進めていく必要があるが、本研究課題の最重要コンセプトである色彩プレザントネスとも深く関わる可能性があり、今後プロジェクトを展開していく上での新たな切り口としたい。
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今後の研究の推進方策 |
プロジェクト2年目となる平成25年度は、まず前年度の遅れを取り戻すべく、LED照明を用いた色照明実験に注力する。実験はすでにスタートしており、2ヶ月程度の期間で必要なデータを取り終えることができる見込みである。この実験を通じて、研究計画書に述べた二つの目的、すなわち、①環境色彩が心理効果を発揮する際の視覚的プレザントネスの関与の検証、②現実の社会場面における効果的な色彩環境刷新事例の提案、のうちの第一の目的達成に目処か付くはずである。また、この作業が終わる頃に国際色彩学会(7/8-12;英国)が開催されるが、ここでは、平成24年度の主要成果の一つである赤色の課題成績促進効果について研究発表を行う。 つぎに年度後半では、第二の目的に関わる“定番色”の調査研究を実施する。これは数百名規模の学生を対象とした質問紙調査と、実際の生活環境で使用される色彩事例を収集するための現地調査との二本立てで進める。後者においては現地調査のための出張を要するが、成果発表のための出張と一体化させるなどして、できるだけ効率的に行う。さらに、冒頭に述べた色照明実験の結果を踏まえ、必要に応じて確認実験や発展実験を計画する。こちらは最終年度(平成26年度)に目指す理論化・モデル化を見据え、確証的なアプローチで、必要にして十分な裏付けを得ることを目的とする。また、適宜、研究補助者を雇用するなどして作業の分散化を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
色照明実験の進捗遅れに伴い、初年度(平成24年度)研究費の約半分が未使用となったので、これを有効に活用することを考える。この未使用分の約半分は人件費・謝金(当初計画していた研究補助者の雇用を見送ったことによる)であるので、平成25年度は効果的な人件費支出により、研究補助者と協働し、複数の研究課題を効率的に同時進行させる。また、未使用分の残りの半分は、LED照明器具一式が当初想定額より安価で購入できたことによる(当初見積もりで約70万円だったものが、実際にはその半額以下で買えた)。このシステムは、照明器具、電源ボックス、コントローラの3点で構成されるが、一つのシステム内で複数の照明器具を同時に扱えるため、実験を進める過程で、より照明を強くしたい(照度を上げたい)という要請が生じた場合、照明器具だけを買い増すことも考えられる。 一方、旅費(成果発表、調査)として当初25万円を計上していたが、国際色彩学会参加による英国出張だけでこの額を超過する見込みとなり、さらに国内での成果発表および現地調査のための出張を含めると、当初計上額を大きく上回る助成金を使用する可能性が高い。物品購入に関しては、上述の照明器具を買い増す可能性以外には、大きな支出予定はない。
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