既設のLEDカラー照明装置の台数を増し、環境色彩が知的推論課題に及ぼす効果を検討した。前年度の研究で課題遂行中の照明色変化が効果を持たないことが示されたため色別の効果に絞って見たが、西洋文化圏で報告されている赤色の成績減損効果は再現されず色連想の文化差が示唆された。この成果は国際色彩学会(開催地メキシコ)で発表された。また、色彩環境評価における個人特性を探るため独自に作成した質問紙を用いて調査研究を実施した。その結果、プレザントネス志向性と黒・紫嗜好、コンフォタブルネス志向性と橙・緑・黄緑嗜好との関連が見出され、これらの色が種類の異なる快適感喚起と関わる可能性が示唆された。この成果は平成27年度の国際色彩学会(開催地東京)で発表される。さらに、屋内外の様々な景観写真を用いた評価実験を行ったところ、たとえばマゼンタの路上街灯や緑のトンネル内歩行者誘導灯など、少なくとも我が国においては見慣れない色使いがプレザントネスを喚起し、色彩効用発現の心理的素地を提供する可能性が示された。この研究については、今後さらにデータを増やして予測可能性を高め、実現可能な色彩提案に結びつけていきたい。 研究期間全体を通じ、①色彩効用発現の心理過程を明らかにする実験室研究、②現実の社会場面における色彩環境の評価研究という二本柱を、プレザントネス(意外で楽しい快適性)という切り口で進めてきた。①に関しては、「特定の色でなく色の変化が鍵を握る」という当初予想を支持せず、個人の色嗜好に強く影響を受けつつも、むしろ特定の色がプレザントネス喚起と関わることが示唆された。②については、「定番色を裏切る意外な色使いがプレザントネスを喚起する」という仮説を支持する結果が得られた。しかし、これを現実の社会環境に導入するには色嗜好の個人差や色使用の社会通念的制約などクリアすべき課題はなお多く、今後さらなる研究が必要である。
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