研究課題/領域番号 |
24653165
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研究機関 | 淑徳大学 |
研究代表者 |
神 信人 淑徳大学, 社会学部, 教授 (30296298)
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キーワード | 公正感 / 利害対立 / 均衡理論 / 報復 / 社会的比較 |
研究概要 |
平成25年度は実験室実験1つと場面想定法実験2つを実施した。 25年度「今後の推進方策」で計画された新第2実験は、方法を一部変更して場面想定法により実施した。具体的には、利害対立関係における一方の当事者の正しさの主張は、対立相手の態度に直接働きかけることよりも、第三者への共感を得て社会的圧力を生みだすことで間接的に作用することを検証した。この結果から、我々が正しさに反応するのは、それが内在する価値に直接反応するだけでなく、それがもたらす(と期待される)社会的な力に反応している可能性が示唆された。 また24年度に進めた理論発展に伴い理論化が必要になった、正しさや善さがどのように他者を巻き込んで連鎖するのかに関する実験室実験を実施した(第3実験)。具体的には、集団内または集団間で、他者に自己利益を損なわれる経験または与えられる経験をすることが第三者への行動にどのように作用するのかを、ゲーム状況を用いた実験室実験により検討した。その結果、利他的行為の連鎖は集団内では促進的、集団間では抑制的なのに対し、搾取的行為の連鎖は集団内では抑制的、集団間では促進的になることが示された。 さらに25年度「今後の推進方策」で計画されていた新第1調査として、正しさの比較困難性に関する検討を行った。正しさの程度は損得や強弱等の程度とは異なり相対比較できるものではない。にもかかわらず多くの討論場面ではそうした正しさの優劣比較が行われ、それが説得効果をもたらすどころか、敵対的反応を増幅する原因になっていると考えられる。そこで場面想定法による質問紙により、異なる正しさを拠とする主張が対立する状況で、1)互いの正しさの優劣比較がなされると頑なで攻撃的な反応が引き出されやすいこと、2)逆に、正しさの優劣比較を放棄し、双方が主張する正しさをそれぞれ尊重することにより解決が促進されることを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の計画において25年度までに予定していたのと同じ4つの研究が実施できている点は順調と言えるだろう。もっとも理論変更が一部あり、正しさのもつ社会的作用についての研究を優先している点は交付申請書の計画通りとは言えない。ただし、これは研究進展に伴って明らかになった理論上の重要性にもとづく優先であるので、理論的には進展していると考えることもできる。 26年度にコンピュータシミュレーションの実施が計画されており、そのプログラム開発が25年度に予定されていたのだが、未だシミュレーションの基本アルゴリズムが構築されておらず、この点はやや遅れている。これは理論変更に伴い、研究申請時に想定していたシミュレーション・アルゴリズムでは対応が困難な恐れがあり、それについての検討を進めているためである。
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今後の研究の推進方策 |
平成成26年度は、正しさという行動基準が、社会的関係の構築にどのような役割を果たすのかについて、第4実験とコンピュータシミュレーションにより検討する。 我々は、他者への作用を伴う対人行動を選ぶ際、その行為が正しいか正しくないかという基準以外に、行為結果の損得や行為対象への好き嫌いなど様々な基準を用いる。こうしたある個人がどの基準に従って対人行動を選択しているかという情報は、その個人の真正さ等に対する印象を形成し、その個人に対する他者の関わり方を左右すると考えられる。 第4実験では、どのような行動基準を採用している者が、他者からどのような対人関係の構築を志向されるのかについて解明を目指す。具体的には、正しさを行動基準とする場合、さらにその正しさの根拠をどのような価値においているかによって、他者からどのような関係構築を目指されるのかについて、他の行動基準等をとる場合との比較を通して検討する。これまでの議論から、正しさを主張することには、葛藤関係にある相手を宥める作用よりも、その葛藤を取り巻く多数の第三者からの支持を取り付け、社会的圧力を生み出す作用があることが導かれている。そこでさらに、どのような価値に基づく正しさを主張すると、社会を変え得る存在として多数からの支持を獲得できるのか、検討する。 コンピュータシミュレーション研究では、正しさの主張が生み出す、葛藤相手の心理に与えるマイクロな作用と、葛藤を取り巻く場としての多数の第三者へのマクロな作用の両方を統合的に理解することが可能な社会構造の解明を目指す。これを通して、個人間の利害対立における行動がそこのみに留まらず、集団全体、社会全体へとリンケージする過程において「正しさ」が果たす役割を明らかにする。この理論構築が難航した場合、理論構築に資するさらなるデータ収集を目指し、さらなる質問紙調査を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度に行った理論モデルの再構築によって、実験室実験として予定されていた第2実験が場面想定法実験に変更されたこと。同じく理論の再構築に伴い、シミュレーション用プログラムの基本構造の再検討が必要になり、当初予定では25年度から開始される開発が遅れていること。さらに申請時には決定していなかった第4実験を26年度に実施することが確定し、その実験として大規模な実験室実験を予定していること。以上の3点が、次年度での使用を決定した理由である。 第4実験として参加者100人程度の実験室実験を実施する計画である。その実験では、実験参加者から実験参加時の内観を丁寧にとることを予定しているため拘束時間が長くなり、実験報酬の他の実験より多くなることが予想される。また、この実験用のプログラム開発の為に当初予定外の出費が計画されている。さらに、25年度から26年度へ先送りされたコンピュータシミュレーションプログラム開発のための人件費並びに開発に向けた情報収集のための国内出張旅費による使用が計画されている。
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