利己的な人間に対して非協力的に振る舞う人を見た時、我々は「良い人間だ」と判断するのだろうか?あるいは「悪い人間だ」と判断するのだろうか?間接互恵性の理論研究を通して、協力的な社会を維持する上では、人々がいくつかの限られた戦略に従って情報を合成して評判を形成することが必要であるとされてきた。だが本研究がこれまでに実施した実験によれば、人々はいかなる相手であれ非協力的に振る舞う人を「悪い」、協力的に振る舞う人を「良い」と判断し、振る舞いの相手がどのような人間であるかを考慮しないことが繰り返し明らかとなっていた。すなわち評判を判断される行為者が選択した行動を一次の情報、その行為が向けられた相手がどのような評判を持つ人間であるかを二次の情報と呼ぶならば、間接互恵性の原理によって協力的な社会が維持されるためには、一次の情報だけでなく二次の情報との組み合わせによって評判を判断しなければならないのに、実際の人間は二次の情報を利用することがないという知見である。 本年度は個人が独立に情報を入手して判断するのではなく、複数の個人が集団で情報を共有しながら他者について評判を形成する場面を想定して実験を実施した。間接互恵性の理論研究によれば、協力的な社会を維持するための評判形成は、共同体内で情報が共有されることで促進されると指摘されているためである。実験の結果、わずかではあるが個人が判断する場合よりも集団で情報を交換し評判を形成する方が、振る舞いの相手の性質を考慮する傾向が見られたが、その効果は非常に小さいものであった。現在、さらに詳細な分析が進んでおり、その成果を英語論文として公開する予定である。
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