収集した事例をもとに、創発学級を生み出す生徒たちと教師の営みの特徴を整理する。 アイデンティティのゆさぶり ともすると「○○らしい」とか、「あの子はこういう子だ」というようにその個人が一つの行動様式をとることで、その後の行動や態度が類推されたり因果関係が推定されたりする。だが、教師はそうした生徒への認識を固定的にとらえるべきではない。知識や環境からの刺激を与えることで生徒が変容していくさまを学習ととらえるならば、対生徒の認識を固定化することは教育的ではない。生徒のアイデンティティを固定化せずに浮遊することを認めることが重要だ。 多元的な価値 個人の多様性の存在は認めていても、指導者である教師はともすると社会的な価値と教育の場における価値、自らの信念に基づく価値を生徒に強制してしまうことが多い。多様な生徒の価値観を、教師はどこまで受容できるのだろうか。発達段階における活動目標や要求の中で、教師として指導すべき内容はもちろん存在するが、生徒の多元的な価値を認めることなく、過度の強制があってはいけない。生徒個々に役割を付与し、個人が持つ多様な能力を価値づけていくことは、創発学級にとって不可欠である。 相互認証 生徒が活動によって自己有用感や効力感を味わうことは、個人にとっても集団にとっても好ましい。活動を経験し、自己の役割を担えたことを体験したことに大きな意味がある。当初は個人の内的な喜びであるが、さらに周囲の人々から認められることで、体験の価値はさらに高まっていく。そうした体験は、役割を果たした自分を定位し、次の活動の参照点となる。周囲とのかかわりにより共同体の一員としての充実感や活動以前の自分からの解放を達成したことを振り返る、いわば新しい自己を立ち上げる契機とすることができるのである。 以上の3段階が、創発学級を導く教師の指導のポイントである。
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