本研究は、ナマハゲ行事の観察やナマハゲを体験した子どもとその保護者への面接調査を通して、ナマハゲ行事が子どもたちの情緒発達に与える影響を検討した。その結果、ナマハゲ行事による恐怖の特徴として、以下のことが明らかになった。 ①ナマハゲによって喚起される恐怖は、事故や災害によって生じる恐怖と異なり、ある文脈に支えられている。ナマハゲ行事には神事としての位置づけがあり、集落の人々は、恐怖を引き起こす悪しきものとしてではなく、人々の怠け心を戒め、災厄を祓い、豊作、豊漁や家族の健康を約束する神的な存在としてナマハゲを位置づけている。そのため、ナマハゲによる恐怖は、神仏を畏れる恐怖に近い。これらの文脈は、行事全体を通じて家族や地域によって支えられ、子どもたちへと伝えられている。 ②ナマハゲに対する恐怖感には発達的な差異が見られた。1~2歳の幼児は、異様な外見や物音に対して恐怖を感じているようだった。3歳~就学前までは、ナマハゲを実在するものとして捉えており、ナマハゲに対して強い恐怖感を抱く。小学校に入学する頃から、ナマハゲが架空の存在であることを理解し始めるが、それがわかっても、実際に来訪すれば恐怖を感じる。子どもたちの成長に伴う理解力の増加や経験による対応策の獲得により、怖さをコントロールできるようになることがわかった。 ③ナマハゲによって喚起される恐怖感は、行事の間は強烈だが、普段の生活には(怖さとして)それほど強い影響を及ぼすものではない。しかも、父母に「ナマハゲが来るぞ」と言われて、自分の行動を修正するのは小学校低学年くらいまでである。幼児期には強烈な恐怖を感じるが、その恐怖感が日常生活にも影響を及ぼすこと(例えば、夜泣き、怖がる等)はない。 ナマハゲ行事は全体として、子どもたちに恐怖とどのように向き合い、どのように統制していくかを経験させる機会となっていると考えられる。
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