2011年3月の東日本大震災で、女川町(宮城県)は甚大な津波被害に遭った。2ヶ月後、女川町立A中学校生徒は、現地教員が主導する国語科授業内で“素直な「今」の気持ち”を五七五に詠んだ。この『俳句・連句作り』の学校プログラムは、句の提出先が“宇宙”に位置づけられている点、五七五に非津波被災地の小・中学校(連句校)から続きの七七が寄せられている点が独創的と言える。初回実施後も約半年おきに俳句が詠まれている点、生徒の句が町全体を励ましていった点(例:町の復興目標への採用)も注目に値する。そこで本研究課題では、『俳句・連句作り』を有望な震災後の長期的心理支援と捉え、質・量の2側面からその効果を探究した。 【質的研究】〔A中学校生徒の句〕2011年5月・11月に詠まれた、ある1学級生徒の句、“海”に類する語を含む句、“地元地域”を示唆する語を含む句、40句ずつ無作為抽出した各学年の句を、それぞれ時期ごとに体系化した。そこからは、みなで掲げて確認し合う“希望(=故郷の復興)”から各個の胸中に芽生える“希望(=未来)”、悲愴な訴えから秘やかに詠う深い悼み、奪われたものへの慟哭から自他に誓う自らの成長等、中学生の心理的回復や成長の過程が伺われた。〔A中学校教員の語り〕現地教育現場のニーズへの応答性、“五七五”という表現形式の利用等、『俳句・連句作り』の特長が見出された。〔学校間連句交流の感想〕顔も名も知らない中学生同士の「五七五(津波被災地)-七七(津波非被災地)」であったが、互いに詠み手(読み手)に心を寄せ合い、“心のつながり”を抱き合っていたことが示唆された。 【量的研究】 米国で開発されたPosttraumatic Growth Inventoryの邦訳版を開発し、中高生を対象に全国調査を行った。A中学校、連句校、その他の学校の得点を比較し、A中学校生徒に一定の震災後心理的成長を認めた。
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