研究課題/領域番号 |
24653201
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
榊原 雅人 愛知学院大学, 心身科学部, 教授 (10221996)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 心拍変動バイオフィードバック / 心拍変動 / バイオフィードバック / 睡眠 / 自律神経活動 / 休息機能 |
研究概要 |
本研究は、心拍変動バイオフィードバック(以下、HRV-BF)法における臨床的効果の機序を睡眠中の休息機能の面から明らかにすることを目的とした。24年度は、HRV-BF法を就寝前に実施した際、それに続く睡眠中の心肺系休息機能が増大するかどうかを検討するため、45名の実験参加者をランダムにHRV-BF群、自律訓練法(以下、AT)群、コントロール(無処置)群に配置した。HRV-BF群の参加者は小型BF装置を用いて就寝前に20分間訓練を行った。AT群は重感・温感練習の教示(録音)を聞きながら20分間、就寝前に実施した。コントロール群には特別な教示を与えず日常どおりに就寝することを指示した。すべての参加者に腕時計型の脈拍センサを装着させ参加者の自宅において睡眠中の脈拍間隔データを測定した。脈拍測定第1日夜はベースラインとして脈拍データを測定するのみとし、続く第2日夜と第3日夜に各条件を実施した。また、就寝直前に状態不安尺度を実施し、HRV-BF群と自律訓練群では各手続きを実施する直前にも状態不安を測定し各々の不安軽減の程度を評価した。結果として、HRV-BF群とAT群では手続き実施後に状態不安が低下する傾向にあり、これらの参加者ではリラクセーションの状態にあったと考えられた。一方、脈拍データをスペクトル分析し、睡眠中の脈拍間隔変動(心拍変動)の高周波成分(呼吸性不整脈)の振幅を比較したところ、AT群やコントロール群では変化がみられなかったにもかかわらず、HRV-BF群の第2日夜・第3日夜の高周波成分の振幅はベースライン(第1日夜)に比較して有意に増加した。心拍変動の高周波成分は呼吸性不整脈を反映し、睡眠中のそれは心肺系の休息機能の指標となることが示唆されている。実験によって得られた事実から、HRV-BF法は就寝前の不安を低減し、睡眠中の休息機能を高める可能性のあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心拍変動をコンピュータ画面に提示してゆらぎを増大させる方向へ訓練する手続きを心拍変動バイオフィードバック(heart rate variability biofeedback: 以下、HRV-BF)法と呼び、近年、喘息、繊維筋痛症、うつ病、心的外傷後ストレス障害などの症状改善に成果を上げている(例えば、投薬量の減少、痛みの緩和、うつ状態や不眠の改善)。特に、最近では不眠の改善に一貫した効果のあることが報告されている。心拍変動(呼吸性不整脈)は、肺のガス交換効率を高め、心肺系エネルギー消費を抑えることから、睡眠中の心拍変動が心肺系の休息機能を担っていることが指摘されている(Hayano & Yasuma, 2003)。本研究は、HRV-BF法が睡眠中の休息機能を高めることを通して臨床的効果を発現しているのではないかとの仮説に立ち、平成24年度においては、HRV-BF法を就寝前に実施した際、それに続く睡眠中の呼吸性不整脈が増加するかどうかを検討した。これまで、実験参加者45名をHRV-BF群、自律訓練群、コントロール(無処置)群に配置し、すべての参加者において4日間(順応1日と測定3日)の就寝中脈拍データを取得した。データの分析と結果のまとめについては概ね平成24年度の計画どおり実施することができ、結果として、HRV-BF法を実施した群では就寝中の呼吸性不整脈の程度が増大する事実が認められた。現在までのところ、本検討結果を関連の学会へ発表し、関連の研究雑誌(英文、審査有り)に投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の推進方策は二つある。ひとつは、高不安・高うつ傾向の学生を対象に、就寝前HRV-BF法を実施した際、睡眠中休息機能の増加と不安軽減効果が十分に発揮されるかどうかを明らかにすることである。この目的のため、バイオフィードバック画面や参加者への教示に工夫を加えた効率的なHRV-BF訓練プロトコルを提案する。ふたつめは、米国のHRV-BF法の開発者(研究協力者)を日本へ招き、本研究結果(平成24年度の検討結果)を踏まえた上で、今後の臨床適用を視野に入れた公開ワークショップを開催することである。前者については、広く学生参加者を募り、高不安・高うつ傾向をもつ者に対して実験への参加を求める。この際、倫理基準に基づいた説明と同意を得た上で実施する。後者については、第41回日本バイオフィードバック学会学術総会(会長廣田昭久教授、鎌倉女子大学)にてシンポジウムを開催する準備を進めている。シンポジウム参加者はPaul Lehrer氏(研究協力者、Robert Wood Johnson Medical School, NJ, USA)、榊原雅人(主任研究者、愛知学院大学)、澤田幸展氏(元札幌医科大学教授)、及川欧氏(旭川医科大学)とし、日本バイオフィードバック学会の他、日本心理医療諸学会連合(UPM)へ向け、広く会員の参加を呼びかけている。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の推進計画に沿って、ひとつめの検討においては就寝前HRV-BFの訓練プロトコルを策定し、これが効果的に睡眠中の呼吸性不整脈を増大させるかどうかを検討する。この検討において、HRV-BF訓練に用いる心拍変動の提示装置は既に保有しているため、分析法(睡眠中の呼吸性不整脈の分析)を昨年度以上に充実・洗練させたいと考えている。このための分析ソフトウエア(MATLAB)の導入を検討している(約100千円)。ふたつめの計画(シンポジウム開催)においては、Paul Lehrer博士を米国から招聘する。本研究結果とHRV-BF法の今後の臨床応用可能性を広く社会へ発信するため、当初計画のとおりシンポジウム(日本バイオフィードバック学会にて)を開催し、同時に今後の推進計画(研究結果の討論、将来的な研究テーマへの発展、臨床応用の方途など)について打ち合わせを行う。研究費は、上記の他、Paul Lehrer博士招聘のための旅費(国内宿泊費を含む)として使用する計画を立てている(約400千円)。
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