研究課題/領域番号 |
24653210
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関 義正 東京大学, 総合文化研究科, 民間等共同研究員 (50575123)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | コミュニケーション / 視聴覚 / セキセイインコ / 鳥類 / 動画像 |
研究概要 |
セキセイインコ用の視聴覚オンラインシステムの構築を終え、実験を開始した。これまでに4羽の鳥を使い、組み合わせを替えながら3条件で鳥の行動の違いを比較した。3つの条件とは以下の通りである。(1)モニターおよびスピーカー越しに2羽の鳥がそれぞれ互いにインタラクションをとれる条件(2)相手がおらず、鳥かごだけが見える条件(3)録画されたビデオが再生される、つまり被験体が相手とのインタラクションをとろうとしても一方向の通信となる、つまりインタラクションが成立しない条件。 各条件での鳥の活動はすべてビデオ録画し、それぞれの鳥の動きについて実験者によるラベル付けを行い、これを解析した。その結果、1と3の条件では2の条件よりも明らかに鳥の動き(活動量)が増加することがわかった。そして1と3の条件でも動きのパターンが異なることが観察された。またオスとメスの組み合わせにおいて活動量が最も多くなるということがわかった。 これらの違いをより定量的かつ客観的に示すため、実験者によるラベル付けだけでなく、コンピュータによるビデオ映像の自動的な解析も行っている。具体的には、動画像から各フレームを取り出し、それぞれについて縦×横×ピクセルのRGB情報の3次元ベクトルで表し、これを基にフレーム間の差を動きの変化量として、被験体の動きの総量および、被験体間の動きの相互相関を見るプログラムを作成した。現在このプログラムを用いて解析を進めている。また、別のインコの実験群でも同じ実験を行うために10羽の鳥を入手し、装置への馴化および音声の録音などを進めている。これら新たに導入した個体はこれまでの実験個体から隔離された状態で飼育をしており、続く新奇な個体間でのオンラインコミュニケーション実験のために備えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに、オンライン上でインコに相互コミュニケーションをとらせつつ、その間の様子をビデオと音声で記録するシステムを作成し、これがうまく機能することを確認できた。そして実際に4羽の鳥で実験を行い、各種データを取得し、解析を進めている。インコが通信回線を介した他個体の視聴覚情報に強く応答することは明確に観察できている。 当初の予定では、実験システムが機能することを確認できた後、視覚情報と聴覚情報のどのような属性がコミュニケーションにおいて重要なのかを知るため、実験の早期に通信回線上で情報の修飾・改変などを行い、これによる鳥の行動の変化を検討することにしていた。しかし、実験を進めていく過程で、まずはコミュニケーションの成立を定量的に示すことが重要であることが明らかになった。 そのために動画像から各フレームを静止画像として取り出し、各フレームの差を検出するプログラムをツールとして用いることにした。このプログラムの作成に時間を費やしたため、スケジュールの調整を余儀なくされた。しかし、結果的に興味深いデータが得られつつあり、この結果はより説得力を増すものとなったため、ここまでの成果を今年の国際動物行動学会の大会で発表することがすでに決定している。また、次の実験群の候補となる鳥についても確保することができた。これらの鳥と新たに開発したプログラムを用い、これまでに確立した手法を用いて情報の修飾・改変実験および、オンラインコミュニケーションがはたして報酬として機能するのかどうかを再現可能な形で探るための基盤ができたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは追加した実験群も用いて、動物によるオンラインコミュニケーションが成立し得ることを定量的に示し、結果を学会発表などで公表する。その後、そのための視聴覚情報のうち、どのような属性が重要なのかを通信回線上を伝わる情報の操作により実験的に示す。この時点で論文を執筆する予定である。 続いて、動物がオンラインコミュニケーションを欲するのかどうかを検討するためにオペラント条件づけを行い、他個体との通信回線上のコミュニケーションが報酬となりえるのかどうかを実験する。また可能であれば、そのような報酬がエサのような一般に用いられる報酬と強化力という点でどのように異なるのか、依存性のようなものが生じえるのかを検討する。この実験の結果も単体での発表を行う。 最後に新奇な個体とのコミュニケーションを行わせ、それらの個体が実際に対面したときに何が起きるのかを検討する。つまり、ソーシャルネットワークにおける、いわゆるオフラインミーティングをインコに行わせることを試みるということである。 これらの結果をもとに、セキセイインコがヒトのオンラインコミュニケーションのモデル動物たり得るのかをまとめる。また、ヒトのオンラインコミュニケーションをより良いものとするために何が必要なのかを生物学的に検討する。さらにインターネットによるコミュニケーションの可能性と問題点までを議論し、論文としてまとめる。 当初の予定では、最終年度はほぼまとめの作業だけを行うように計画していたが、追加の確認事項が増えたため、最終年度の前半にも実験を行うことになると考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
実験当初には、使われなくなったコンピュータの再利用などにより、当初計画していた新たな機械の購入を抑えることができ、研究経費の削減が可能になった。しかし、動画像解析のための計算を行うために、現在のコンピュータでは1つのデータの解析に丸二日間計算を続けるといったことが生じている。また、音声の解析を本格的に進めることにもなるため、新たな高性能コンピュータを複数購入する予定である。また、計算用のソフトウェア、プログラミング環境や周辺機器を購入する。これらのために70万円を見込む。 さらに研究成果を25年度にイギリスでおこなわれる国際学会で発表する予定であり、そのための渡航費用、宿泊費、参加費が必要になる。発表は研究代表者と博士研究員の研究補助者により2件行う予定であり、およそ60万円を見込む。その他、国内の動物心理学会および動物行動学会参加のために数万円の支出が必要になると予想している。 また、実験動物管理と解析のために昨年度同様、補助者への謝金とする。その他、動物の飼育・管理に関わる諸経費が必要になる。また論文の執筆が予定通り進めば、25年度中にも英文校閲、投稿料が必要になると考えている。
|