本研究では、ヒトと同様にコミュニケーションにおいて視聴覚情報を優位に使用する鳥類のうち、セキセイインコをスカイプのような視聴覚デバイスを用いたコミュニケーション研究におけるモデル動物として確立することを試みた。そして、確立したモデル動物を用い、そのような現代的なコミュニケーションの生物学的研究を可能にする方法論を提案する可能性を検討した。 複数のセキセイインコを別々に入れることができる互いに隔離された実験箱を用意し、それらに小型液晶モニタ、スピーカー、小型カメラ、小型マイクロホンにより構成された視聴覚デバイスを設置し、それら装置を介したコミュニケーションが可能になるシステムを構築した。そして、トリを一定時間その箱の中に入れ、そこで見られる行動すべてを記録・解析した。また、そのようなコミュニケーションがオペラント条件付けにおける強化子として機能するのかどうか、またエサと比較した場合にどれほどの強化力を持つのかを検討した。 記録した動画フレームのピクセルデータの差分を取るという方法で被験体の活動量を分析したところ、単なる録画像を提示する条件と視聴覚デバイスを介した実時間でのコミュニケーション条件でその量に違いが見られた。また、行動をカテゴライズして、それぞれのカテゴリの生起頻度を比較したところ、これについても2つの条件の間で違いが見られた。これらの違いは大きなものではなかったが、セキセイインコが視聴覚デバイス上に提示される他個体の録画像とそれらデバイスを通じたインタラクティブなコミュニケーションの違いを知覚している可能性を示唆する結果となった。一方でそのような視聴覚コミュニケーションはエサと比較した場合には強化子としての機能は非常に限定的であるという結果が得られ、また強化力についても録画像とインタラクティブな視聴覚コミュニケーションの間でのに違いは見られないという結果となった。
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