本研究の目的は、従来の心理学史に内在する(1)欧米人の観点を中心としたエスノセントリズムと、(2)男性中心のジェンダーバイアスという2つの問題点を克服し、新たな視点からの心理学史の可能性を模索することであった。そこで、対象者を日本の女性心理学者に限定した上で、彼女たちと欧米の心理学者との交流の歴史をインタビュー調査によって検討した。その際、本研究の特色としては、異なる年代の日本人女性心理学者にインタビュー調査を行い、それを単なるエピソードとして収集するのではなく、質的研究の一つであるライフヒストリー研究の枠組みの中で分析を行う点にあった。 24年度は、一線を引退した高齢(満75歳以上)の日本人女性心理学者9名を対象とし、連絡が取れ承諾していただいた6名を対象にインタビュー調査を行った。また、当初予定していた25年度の対象予定者である、現役で活躍している中高年の日本人女性心理学者23名のうち、5名にもインタビュー調査を行った。25年度は残りの18名の対象予定者のうち、連絡が取れ承諾していただいた6名に加え、ほぼ同年代の2名の計8名の女性心理学者にインタビュー調査を行った。いずれも研究代表者自身がインタビュアーとして90分程度の非構造化インタビューを行い、許可を得た上で録音を行った。 こうして、これらのインタビュー記録をもとに、引退した高齢女性心理学者と中高年の女性心理学者の間には、いくつかの差異性(受けてきた教育、家事と育児の負担、欧米の心理学者との交流の違いなど)が認められた。これらのことによって、エスノセントリズムとジェンダーバイアスから脱却した新たな心理学史を構築できる足がかりが明確になった。
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