研究課題/領域番号 |
24653232
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
前田 晶子 鹿児島大学, 教育学部, 准教授 (10347081)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 富士川游 / 山下徳治 / 発達概念 / 小児科学 / H. ワロン |
研究概要 |
本年度は、主に以下の4課題について研究を進めた。 (1)医学者でありかつ児童研究に携わった富士川游研究である。彼の教育治療学の取り組みについて、雑誌『児童研究』への執筆動向を中心に分析した。その成果は、黎明期治療教育学における「治療」概念の学説史研究として論文にまとめた(投稿中)。これまで、治療教育学の学説史研究としては、三田谷啓や奥田三郎ら1920年代以降の研究と実践がその対象とされてきたが、彼らに一世代先立つ富士川は、医学と教育学の初発の架橋を担って次代の実践の基盤を作ったという点で重要な役割を果たしたといえる。論文では、富士川が担った学の形成の質について、彼が依拠した海外の研究動向を整理・分析し、彼の引用傾向が必ずしもドイツ治療教育学に限定されるものではなく、欧米の小児医学、知能研究、新教育など幅広い領域にまたがるものであり、あくまでも「治療学」(医学)を起点とした教育学を発想していたことを明らかにした。また、病理学的な観点に依拠した発達観の特徴について考察した。 (2)フランスの医学に基礎をおく発達論の検討として、アンリ・ワロンの医学的発達研究の検討を進めた。坂元忠芳氏(研究協力者)によるワロンの一九二五年の著作「L'Enfant turbulent」の分析を踏まえて、医学者ワロンの子どものに対する症例分析の特徴がどのように発達研究に繋がるのかについての方法論的な検討を行い、坂元論文の解題として執筆した。 (3)教育学者山下徳治の発達観について、ソヴィエト訪問との関係で論文にまとめた。彼は1934年の発育論争の中心メンバーであり、彼の発達思想の哲学的基盤に訪ソに経験があったこと、またそこからデューイへの関心を深めていったことを検討した。 (4)江戸後期の民衆の子殺し教諭書と小児科書における子どもの生命観について、共著で論文を執筆し、著書として出版することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本研究に関わって1著書、2論文と1解題を執筆することができ、概ね順調に成果を上げることができたと考える。 解題の作成については、2年目に予定していたが、計画後に発達心理学や精神医学領域の専門家に協力を得ることができ、フランスの医学的発達論の系譜を踏まえたワロンの発達研究について考察を行った結果、当初の予定よりも早く作業を進めることができた。 また、当初は教育学者山下徳治による発達研究の検討を計画の中心には組み込んでいなかったものの、年度途中で山下に関係するまとまった文書の提供を受けたため、その分析を本研究に位置づけることとした。すでに年度末から分類作業に入っており、今後は富士川研究に続く時代の発生論的発達論として位置づけることを検討したい。 当初の計画を変更せざるを得なかった点としては、アメリカにおける古医書調査である。当地における所蔵状況の確認に時間を要し、訪米の計画を平成25年度に移動せざるをえなかった。2年目の計画を調整し、滞りなく実施したいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定は以下の3点である。 第一に、二度にわたる海外での史料調査を行う予定である。米フィラデルフィアと中国北京での日本の古医書調査である。この調査において、小児科書の収集を行い、日本の医学関係史料(主に富士川文庫)と併せてデータ化を行う。さらに、漢医学から洋医学への転換を貫いて、日本の小児医学において子どもがどのように捉えられていたのか、その身体観の分析を行う予定である。 第二に、現代小児医学における子どもの発達研究とインフォームドコンセント、ケアについての検討を行う。この点については、研究協力者である山下早苗氏と共同して進める予定である。とりわけ、「不確実性」をキーワードとして、子どもの病因論と症候論を通した身体論の質について分析・考察を行う。 第三に、平成24年度に行った富士川游研究と坂元によるワロン研究を踏まえて、教育治療学、治療教育学等における治療と教育などの概念について分析を比較研究としてすすめ、まとめたい。 第四に、山下徳治文書の検討を進め、資料紹介を執筆する予定である。山下研究については、本研究とは別にこれまでも進めてきているところではあるが、発生的発達論の検証という内容的な重なりとともに、文書の整理・分析という基礎的な作業を行うため、挑戦的萌芽研究としてふさわしい研究内容であると考えている。 上記の成果については、第一~第四の課題を本研究の報告書としてまとめる。特に、第一、第二は小児医学研究として、第三、第四は教育学研究としてまとめ、両者の関係を考察する。同時に、坂元によるワロン研究については、別途発表の機会(報告書の別冊の作成など)を検討したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、主に3点に関連して研究費の使用計画を立てている。 (1)米国を中心とした欧米の小児医学及び小児看護に関する書籍類の購入に係る費用 (2)日本の古医書(小児科書)に関する海外調査(米国と中国への渡航費及び史料収集に係る費用) (3)研究報告書の作成に係る費用
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