本年度は、萌芽研究の最終年度として、二回に渡る海外での文献調査と、成果の発表を行った。 (1)中国北京国家図書館(古籍館)では、漢医学小児科書を約20点にわたり閲覧し、特に明朝の著名な小児科医銭乙と菫汲の書物及びその類書を検討した。黎明期小児科学における主たる理論と、その理論を支える症例研究(治験)の分析を行った。 (2)台湾故宮博物院(図書文献館)では、明治初期に日本に来日し、多くの古籍を持ち帰った楊守敬の文庫「観海堂」に収められている小児科書の閲覧を行った。ここでも、北京調査と同様の検討を行ったが、日本人による注釈などが朱書きされており、小児科学の受容がどのように行われたのかを具体的に跡づけることができた。 (3)明治期の医学者富士川游の研究を、教育史学会『日本の教育史学』に発表した。 (4)発達研究としては、フランスの心理学者アンリ・ワロン研究に関して、訪仏してフランス国立障害者教育・指導方法高等研究所(INS HEA)を訪問した折に、フランス心理学における医学の伝統についての資料を調査・収集することができた。また、山下徳治研究においては、リベラル派であった山下がソビエト心理学と出会い、そこから人間発達の思想を「労働」や「社会」といった概念を中核と位置づけながら再形成していた点を論文としてまとめた。また、彼が戦後に青少年のスポーツの推進に尽力したことと関わって、発達思想の形成史において、小児科における治療実践だけでなく、スポーツやケアといった側面からのとらえが必要であることを今後の研究の課題として確認した。
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