研究課題/領域番号 |
24653257
|
研究機関 | エリザベト音楽大学 |
研究代表者 |
里村 生英 エリザベト音楽大学, 音楽学部, 准教授 (90235432)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | スピリチュアルケアサービス / ミュージック・サナトロジー(音楽死生学) / キリスト教スピリチュアリティ / 祈り / ハープと声/歌 / 看取りのケア/エンドオブライフケア / ホスピス・緩和ケア / 喪失(グリーフ)ケア |
研究概要 |
本研究は、「リラ・プレカリア(祈りのたて琴)」(一般社団法人日本福音ルーテル社団主催、以下LPと略)の参加観察と資料収集を通して、養成講座の特徴と社会における活動の反応を明らかにし、これらを、現代のスピリチュアリティの学術的論考に照らし、今後の日本のケア現場で、音楽を介してスピリチュアルケアサービスを行う、実践者養成のための課題を提言することを目的としている。 そのために本年度は、1.LP設立趣旨と養成講座に関する資料収集、2.活動実践者(LP修了生)及びその協力者へのインタビュー、3.スピリチュアリティ関連の文献収集と学会出席、4.エンドオブライフ・ケアでの音楽提供を扱った米国文献の翻訳作業を行った。具体的に、1については、LPは、キリスト教世界観に根差した、人間の生活におけるスピリチュアリティの普遍的重要性の強い認識から設立されたことが分かった。また、養成講座1年目は、詩編の学びと祈りの修練を核とし、リフレクション、分かち合い、奉仕活動に必要とされる知識と技能に関する講義と演習、見学で構成されていることが確認された。2については、ホスピス・緩和ケアでの実践者及びその協力者計5名へのインタビューを実施し、全員がこの活動を通して多種多様な癒しを目撃し、また、ひとが死に逝くことの中に、畏敬、自然性、永遠性を見出していることが明らかになった。現場での課題点も採取できた。3では、宗教的ケアの必要性に対する論議の高まりが認められた。4は、1~3の知見をもとに現在進行中である。 現在、日本では、スピリチュアルケアの概念構築、環境整備、実践者養成が、危急の課題である。そのような中で、LPを通して、スピリチュアリティ涵養を核とした養成教育のあり方と音楽による魂の癒しを目標とする活動の実態を解明することは実に意義深い。また、米国におけるこの分野の実態を扱った文献翻訳も意義深いと思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「リラ・プレカリア(祈りのたて琴)」プログラムに関する資料のうち、プログラム理念、養成講座のカリキュラム編成、社会活動における活動の実際に関するデータ収集については、参加観察、プログラム実務者及びプログラム・ディレクターとのやりとり、活動実践の見学、現場実践者(修了生)及び実践活動施設協力者へのインタビューを通して、順調に進んでいる。また、スピリチュアルケアならびに喪失のケアの学術的根拠及び理論的背景となる文献・資料の収集についても、死生学、宗教学、社会学などの人文学系の分野と、日本スピリチュアルケア学会などの学会出席時の資料とを中心として順調に進んでいる。さらに、エンドオブライフ・ケアにおける音楽提供を取り扱った米国文献:J.L.Hollis(2010)『Music at the End of Life』の翻訳については、翻訳権を取得し、現在、著者と連絡を取りながら翻訳の作業を進めている段階で、おおむね順調である。 しかしながら、当初計画した、プログラム・ディレクターのプログラム運営に関する事柄についてはデータ収集が極めて困難であった。また、養成講座への直接参加も限られたものとなった。このため、プログラム(カリキュラム)編成方針及び養成講座1年目の講義内容の実際の把握は、不完全なものとなっている。これは、当研究者が東京―広島の遠距離を、所属機関の仕事の合間を縫って頻繁に移動することに限界があったことと、プログラム実務者とプログラム・ディレクターと当研究者との間で、仕事の流れ・時間の違いからくるミス・コミュニケーションによるものであった。 従って次年度は、受講生の実習とプログラム・ディレクターによる奉仕活動に焦点を当ててデータ収集を行い、引き続き、プログラムの根幹にあるスピリチュアルケアの概念とあり方、実践者養成のあり方を探っていくものとする。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究を継続して、本年度は以下を行う。 1.「リラ・プレカリア(祈りのたて琴)」第4期養成講座2年目についての資料及びデータ収集を、実習とその分かち合いに中心に行う。2.プログラム・ディレクターによる社会における奉仕活動に同席・同行し取材を行う。3.実習受け入れ先のスタッフ、対象者及びその介護者、また、プログラム・ディレクターの奉仕活動依頼者にインタビューを試み、この活動がもたらす影響について調査を進める。4.平成24年度で得られた資料・データ及び上記1~3で得られた資料・データをもとに、(1)プログラム理念、(2)研修講座カリキュラムの構造と内容、(3)社会における奉仕活動の実際とその評価について整理する。5.4の結果を、昨今のスピリチュアルケアをめぐる学術的議論と照らし合わせながら、(1)音楽を介したスピリチュアルケアの本質的概念、(2)実践者像と養成プログラム編成のあり方、(3)奉仕活動施設との連携のありかた(実践環境の構成のあり方)の考察を行う。6. 5から、今後、喪失のケア及びエンドオブライフケアなど、ケアの現場で、医療行為や療法としてではなく、音楽を介してスピリチュアルな経験をもたらす文化的サービスを展開する実践者養成に向けての課題を抽出する。 7.上記の考察あるいは課題提言については、本研究で得られた成果として、学会発表を行う。8.同時に、本研究の目的を達成するうえで非常に有意義な米国文献:J.L.Hollis(2010)『Music at the End of Life』の翻訳を進め、完了・出版をめざす。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金(次年度使用額199,421円)が生じたのは、当初、直接経費「その他」の費目で、翻訳文献の出版印刷費用の一部として使用する予定であったものの、学内担当者への申請が、平成24年年度末の学内会計処理の締切に間に合わなかったためである。従って、当該研究費は、平成25年度の直接経費「その他」の費目に組み入れ、翻訳文献の出版費用支払いのために全額使用する予定である。 平成25年度請求の直接経費のうち、「物品費」「旅費」「人件費・謝金」は、交付申請時の計画から変更はない。(「物品費」は、データ収集と活動取材のための機器購入及び文献購入に充て、「旅費」は「リラ・プレカリア(祈りのたて琴)」プログラム及び社会活動の参加観察ならびに学会参加のための旅費として、また、「人件費・謝金」は、「リラ・プレカリア」プログラム・ディレクターへの研究協力の謝礼、翻訳文献著者へのスーパーバイザ―に対する謝礼及びインタビュー協力者への御礼として、使用する予定である。)「その他」で請求した金額は、先述のように、平成24年度の未使用額と合わせ、主として、翻訳文献出版費用に充てる予定である。
|