研究課題/領域番号 |
24653265
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小川 雅子 山形大学, 地域教育文化学部, 教授 (40194451)
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キーワード | 国語科教育 / 教材開発 / 神話教材 / 紙芝居 / 古事記 / 伝統的な言語文化 / 現代に生きる神話 / 日本の神話 |
研究概要 |
昨年度に作製した神話の紙芝居の第1回(『古事記』の冒頭の「いざなぎの命といざなみの命の話」)を実演し、アンケート調査を実施した。対象者は、山形県・神奈川県の小学校2年生~6年生まで、492名。山形県内の中学1・2年生、188名。山形大学の1年生、94名。 古事記冒頭の話を知っていたのは、小・中学生で7.8%、大学生で16.7%であった。「外国の神話は読んだことがあるが、日本の神話は初めてだった」という記述も、小学生から大学生まで見られた。このように日本の神話に触れる機会が極端に少ないことは、神話に対する拒否感があるのかと推測したが、この話を「好きではない」と答えたのは、全体の3.9%であった。さらに、神話をもっと「知りたい」と答えたのは、81.1%であった。小学生から大学生まで、神話の具体的な内容に驚き興味をもったことが明らかである。 内容について、「面白いと思ったこと・感動したこと」、「難しかったこと・疑問に思ったこと」、「その後の展開の予想」などについて、記述を求めた。「面白いと思ったこと・感動したこと」については、具体的なエピソードの意外性にたいする驚きの記述が多かった。また、そのエピソードの意味を、現代と結びつけて考えたり、昔の人の考え方として現代と比較しながらとらえている記述も多かった。「難しい点」としては、神様の多さや神名の難しさがあげられていて、年齢が上がると共に多くなっていた。「紙芝居」というメディアの効果につながる記述も多かった。 さらに、第2作目の作品を完成させ、新たなアンケートを作成した。また、それぞれの作品における指導者用テキストを作成している。指導者用テキストには、世界の神話との比較検討を通して、古事記神話の解釈が偏狭にならないように、現代に生きる新たな視点からの解釈に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①神話教材の開発にあたっては、神話としての性格が顕著に表れている話を取り上げることを重視した。そこで、『古事記』神話の冒頭部分の教材化に取り組んだ。しかし、この部分は原典では、多くの難解な神名があり、現代語訳のままでは教育現場にそぐわない部分もあり、それらをどのように表現するかが大きな課題であった。 そこで、古事記の研究書や児童向けの読み物を検討して、物語の中心人物(神)を焦点化して紙芝居化する場面を設定し、神話は大きな比喩であるという観点から現代にもつながる解釈を加えた。さらに、独自のキーワードを設定して、文字だけの画面を複数枚入れて、内容や解釈を確認するポイントを作製した。 その作品を小学校・中学校・大学で実演し、アンケート調査を行った。アンケートの結果、小学2年生から大学生まで、物語はおおむね理解されたことがわかった。また、通常の授業では教室に入らない児童や反応しない生徒たちが積極的に発言した事例が数多くあった。対象者の興味は物語の内容だけでなく、古人の考え方や自然現象の理解など広く多様であった。しかも、8割以上の対象者がさらに知りたいと答えたように、神話の象徴性の深さと、それ故に広がる解釈の多様性、そこに現代にもつながる真実性を感じ取っていることで、神話の教材化の意義や、神話教材がもつ可能性の大きさが明らかになった。 ある小学校では、紙芝居を見た5年生が、学芸会で神話劇を発表した。台本は児童が考えた。そこでは、筆者が教育的観点から紙芝居で省略した部分も取り上げられており、児童の感受性の豊かさに文学作品の取り扱い方を学んだ。また、紙芝居を見た児童が、アンケートとは別に、学習記録・学習日記に、その面白さや驚きを多く綴っていたことも、教材の力と考えられる。 ②世界の神話の中から類似した内容の話を紹介しながら、指導者用テキストを作成するという点については、途中段階である。
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今後の研究の推進方策 |
紙芝居の実演で得たアンケート結果を分析して、児童・生徒・学生の反応の違いや共通性、解釈の多様性などについて考察し、『古事記』冒頭の話の教材化における成果と課題を整理する。さらに、第2回の実演・第3回の作製と実演を行いながら、同様のアンケート調査を行い、児童・生徒の疑問点や理解の困難な点についての対応を考え、作品を修正していく。 さらに、世界の神話との比較検討を踏まえて、類似した話などを紹介しながら、指導者用テキストを作成する。 以上の活動を通して、国語科教育における神話教材の学習内容を整理して、指導の時期や内容についての具体的な実践計画案を示す。日本神話の世界神話との比較という内容も含めて、「伝統的な言語文化」の価値ある教材体系を構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
紙芝居の2作品のそれぞれについての指導者用テキストの入稿が遅れたため、その印費用を平成26年度に繰り越しした。 平成26年度に、それぞれの紙芝居についての指導者用テキストを作成する。繰り越し金は、その印刷費用にあてる。 26年度の予算において、第3作目の紙芝居を完成させる。これらの作品の実演において、新たなアンケートを行い、神話教材の実践の分析と考察を深める。また、これまでの成果を学会で発表し、論文にまとめて投稿する。さらに、紙芝居と指導者用テキストをまとめた報告書を作成する。
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