最終年度に実施した研究の成果。 『古事記』神話の冒頭「神々の誕生と国生みの話」の紙芝居を作成し、小・中学校で実演して行った調査結果をまとめて、「神話教材の開発について-学習者の発達段階による解釈の違いに着目して-」として、全国大学国語教育学会(筑波大会)で発表した。大学生を対象として、「うけいと天の石屋戸」を実演し感想のまとめを行った。第3部「須佐之男命と八岐大蛇」の紙芝居を作成した。3年間の研究成果報告書『「伝統的な言語文化」の指導における神話教材の開発』をまとめた。
研究期間全体を通じて実施した研究の成果。 現行の学習指導要領(国語)の小学校低学年の内容に「神話」が明記されたが、戦後の国語科教育には神話教材に対する研究や実践の蓄積がなく、神話に対して抵抗感をもっている教師もいて実践においては様々な課題が指摘されている。そこで本研究では、神話教材の新たな現代的意義を明確にするために、「世界の神話と比較する視点」・「現代神話を創造する読み」・「言語生活の観点から神話の比喩を読む」という三つの視点を提案した。これに基づいて『古事記』冒頭の話から紙芝居を作成し、小・中学生、大学生、現職教員に実演して調査を行った。小学生の約8割が日本神話を知らなかったが、紙芝居実演後に「もっと知りたい」と答えた者は約9割になった。紙芝居は神話の理解に有効であり、学習者の発達段階によって受容の仕方に大きな違いがあることがわかった。 神話には教訓的な文言はなく、解釈は読者に委ねられている。神話の比喩は、時代や読によって、様々に解釈が可能である。本研究において、『古事記』神話は、小学校低学年だけでなく、中学生から大学生にとっても解釈の広がりをもたらす教材となることがわかった。そして、戦前の神話観から脱却して、学習者の読みを主体とした現代の神話を構築する方向性を明らかにしたことが、大きな成果である。
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