本研究は、小学校初任教師の理科授業を抽出し、熟達教師の理科授業と比較しながら、その実態と変容をIRF三項発話連鎖構造分析に基づき分析した。「教師による働きかけ」のカテゴリーにおいて、初任教師の授業は1時間あたりの全発話数は学期が進むにつれ減少し指示も減少した。しかし、熟達教師に比べて説明が多く推論の根拠を問うメタプロセス誘発がほとんど無かった。これに対し熟達教師は、メタプロセス誘発につなげるために選択誘発を用いるなど、子どもに多様な表現を引き出す方略を駆使していることを実証した。初任教師は理科授業において指示を減少させられるが、子どもの考えを深めるような「教師による働きかけ」に課題があることが示唆された。では、熟達教師はなぜ言語活動から対話を生成し授業力を発揮できるのか。例えば、選択誘発に着目すると、初任教師は、これを単発で用いるのに対し、熟達教師は、これをプロセス誘発やメタプロセス誘発につなげるために用いていることが明らかとなった。熟達教師は、「教師による働きかけ」を構造的に行うことで教室の対話を創造できることが明らかとなったのである。次に、「フィードバック」のカテゴリーでは、初任教師の認可の割合は熟達教師に比べて少なく、さらに初任教師の復唱は熟達教師の復唱と量的には変わらないものの、メタプロセス誘発のような「教師による働きかけ」につなげる復唱を行うことができなかったのである。つまり、熟達教師は、復唱を次の「教師による働きかけ」につなぐことを意図し言語活動を対話として成立させていたのである。初任教師は、復唱を指示や説明・情報提示につなげることが多かったのである。本研究によって、理科授業者が言語活動の連鎖機能を高める構造的な方略を用い授業力を変容させていくことが実証できた。
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