研究課題/領域番号 |
24653281
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
田口 紘子 鹿児島大学, 教育学部, 准教授 (10551707)
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キーワード | 活字メディア / 新聞 / 社会認識 |
研究概要 |
本研究は活字メディアの活用とそれによって形成される読者の社会認識を、社会形成者の育成をめざす社会認識教育の観点から解明することを目的としていた。本年度は昨年度と同様、活字メディアとして新聞記事に着目し、昨年度の予備調査をふまえて調査問題を開発し、県内の小学生・中学生・高校生・大学生、約900人を対象にした「新聞の活用・読解に関する調査」を行った。 調査枠組みは昨年度と同一のものであり、新聞記事のタイプを「事実的記事(出来事の基本要素である5W1Hを中心に書かれる個別的で具体的な事実を主として伝える記事)」「物語的記事(ある筋にそって人々の行為や意図が物語られる記事)」「論説的記事(事件・出来事の原因や結果の分析や今後の対策が論理的に説明される記事)」「象徴的記事(川柳のように少ない活字で世の状態を表現するものや4コマ漫画、広告のように絵や写真でメッセージを伝えようとするもの)」で分け、それらの記事をどのように利用するのかについて「理解(情報を抽出)」「分析(情報を要約、解釈、つなげる(統合))」「反省(情報の偏りを見つける、欠けている情報を想起する、自己の理解・分析を省みる、メッセージを読み解く)」「対抗(欠けている情報を補い、既存のテキストとは異なるテキストやメッセージを発信する)」に分類している。昨年度マルバツ問題として問うた「理解」「分析」についても記述問題で問うなどの工夫を行った。また昨年度にも尋ねた新聞を読む機会と新聞を購読しているのかに加え、身近な情報源や1日のうちで新聞記事を読む平均時間、よく読む記事面などを尋ね、児童・生徒・学生の新聞に対する感覚的回答を集計し、カイ二乗検定によって学校段階で有意差の出る原因となった選択肢を抽出するなどして分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、昨年度の予備調査の結果をふまえ本調査を行うことができた。特に本年度は小学6年生、中学2年生、高校2年生、大学生という幅広い学校種の児童・生徒・学生に対して質問紙調査を行うことができた。調査結果の一部については2013年12月21日に鹿児島大学教育学部で行われた公開講座にて報告を行ったが、より詳細に分析し2014年12月に予定されている日本NIE学会全国大会(仙台市)で報告する予定である。昨年度は記事を読んで生じる疑問を書かせる問いかけによって「反省」できるかどうかを測定しようとしたが、生徒の回答する疑問は日常的・常識的なものにとどまった。今年度は記事内容をより詳しく知るためにはどのような事実を調べる必要があるか、そしてその理由について尋ねることで、「記事に書かれた事実」について挙げる場合と「記事に書かれていない事実」も想起して挙げる場合があり、学校段階が上がるほど後者のような回答が増えるが、後者のタイプの回答を行う小学生も一定程度見られ、社会認識を広げる「反省」や「対抗」のような活字メディアの利用を可能にする要因として、普段の新聞利用や学校での新聞活用方法に着目するという手がかりが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
活字メディアとして新聞に着目し質問紙法によって行う調査では、調査時間の制約もあり「事実的記事」を利用する調査しか行えなかったが、幅広い学校段階の児童・生徒・学生を対象に量的調査を実施することができた。最終年度においては、「事実的記事」以外の新聞記事タイプを利用した調査や質問紙法ではなく面接法を利用した調査を試みる。具体的には新聞活用が盛んな極小規模校である研究協力小学校を年間3回程度訪問し、面接法による新聞活用の調査を行うとともに、協力校教員にも学校での新聞活用等について聞き取りを行う。また新聞を活用した授業前後での児童の新聞認識や新聞活用の変容も明らかにする。 こうすることで3年間の研究において、活字メディアの活用とそれによる読者の社会認識について量的かつ質的に、短期かつ長期に把握することができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果報告を行う予定であった日本NIE学会全国大会(名古屋市)は、海外の他学会大会と重なり発表することができなかった。それにともない、データ入力のための謝金や物品費、旅費の予算一部を執行できなかった。 来年度は本年度の研究成果を学会発表するために全データの入力を行い、学会発表のための旅費や物品費予算を執行する。また今年度は大学から車で片道2時間かかる研究協力校にて面接法による調査を複数回行う。短時間で同時に面接を行うことができるようアルバイトを雇用し、アルバイトの旅費も負担する必要がある。当初の見積もりよりも支出が増えることが予想されるため、当該年度の残金を有効に活用できると考えている。
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