研究課題/領域番号 |
24654007
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
木村 俊一 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10284150)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 代数学 / モチーフ |
研究概要 |
モチビックゼータの一般化であるモチビックチャウ級数の有理性について、研究を進めた。モチビックチャウ級数は一般には有理的ではない(Elizondo 氏との共同研究)、しかしA1-homotopy の関係のもとではトーリック多様体などの場合に有理的になる(Elizondo 氏との共同研究)ということまでわかっていたが、一般の代数多様体のモチビックチャウ級数はA1-homotopyの関係のもとでも有理的にならないのではないか、という予想の証明を、黒田茂氏、高橋宣能氏との共同研究で完成させた。その鍵は、多変数有理関数のベキ級数のニュートン錐の閉包が有限生成になることを示す、という汎用的な結果にあり、モチビックチャウ級数のみならず他の多くの応用が見込まれる。 一方、モチーフ以外の圏におけるモチビックゼータについて、大学院生の沖吉真実氏との共同研究で、箱玉系の母関数の有理性について調べた。古典的な箱玉系の母関数の有理性は、実質的に高橋と薩摩の箱玉系発見の論文の中で既に行われているが、準周期箱玉系へその結果を拡張した。 また、有限グラフのモチビックゼータについて、一般には有理的にならないことを証明した。一方で、「局所有理的」とでも言うべき性質が見いだされ、その証明の完成に向けて研究中である。すなわち、有限グラフXの対称積の形式和は有理的にならないが、他の有限グラフYを固定して、YからXのn次対称積へのグラフ射の個数を係数としてベキ級数を取ると、いつでも有理関数になりそうである。 ヒルベルト空間に有限個のベクトルを取ると、その内積によって半正値エルミート行列が定まる。それを圏の対象と見なしてモチビックゼータを取ると、有理的にならないことが見いだされた。考えている対象は明らかに有限次元的なものであり、モチビックゼータの有理性として必ずしも反映されるわけではない、興味深い例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
モチビックチャウ級数が有理的になるとは限らないことの証明を完成させることは本研究課題の目標の一つであったが、初年度にそれが解決したことは大きな成果である。また、その手法はモチビックゼータ特有のものではなく、一般の多変数有理関数のベキ級数展開が持つ性質についての新発見によるもので、本研究の興味の対象を超えて広い応用を持ちうる結果となった。一方で、モチビックチャウ級数が必ずしも有理的になるとは限らない、というその答は、これで完全解決ということではなく、(1)では何か別の視点から見れば、有理的に見えることはありうるのか?(2)有理的ではないかもしれないが、代数関数や、あるいは興味深い超越関数になっていることはあるのか?(3)どのような多様体であれば有理的になるのか?というようなより深い研究課題が生まれて来たことになる。特に(2)は、モチビックチャウの世界に限らず、代数関数や、興味深い超越関数のニュートン錐の形状について何が言えるか、という多方面に応用を持ちうる問題を提出することになっている。 もう一つ興味深いのは有理的でない反例が、永田のHilbert 第14問題に対する反例によって与えられている、ということである。永田の反例については現在活発に研究が行われており、そことのつながりによって新しい視点が開けてくる可能性がある。 さらに、射影平面のブローアップのモチビックチャウ級数に関して、ブローアップのセンターの配置によって有理性・非有理性が変わってくる、という現象も、本研究によって初めて明らかにされたことである。モチビックゼータは代数多様体のモチーフのみによって定まるが、モチビックチャウ級数はモチーフだけではわからない精密な構造まで見えている、ということで、その深い意味は今後の研究課題である。 重要課題の解決によって様々な新しい研究の地平を切り開いており、当初計画以上である。
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今後の研究の推進方策 |
まず初年度の研究成果により、新しく研究すべき課題が次々と明らかになったので、その課題を考えていきたい。 すなわち(1)モチビックチャウ級数が有理的となる代数多様体の決定(2)多変数代数関数のニュートン錐が持つ性質、また興味深い多変数超越関数のニュートン錐が持つ性質を調べる。という2つの課題については、色々実験することができるので例をとって計算してみる。特にグラスマン多様体の例は重要であると思われるので、計算を進めたい。 モチビックチャウ級数が有理的になる場合に、その分母分子の意味も重要な研究課題である。トーリック多様体の場合は分子は必ず1で、分母の各1次因子はトーラス作用による軌道と1対1対応するが、射影平面上の一直線に並んだ点でのブローアップのモチビックチャウ級数は有理的にはなるが、意味がよくわからない分子があらわれる。またグラスマン多様体の例でも非自明な分子があらわれそうで、その意味を調べたい。 モチビックチャウ以外の脈絡でのモチビックゼータの有理性について調べることも、本研究課題の大きな目標である。有限グラフのモチビックゼータは一般には有理的にはならないが、局所的有理性を持つ、すなわち有限グラフXとYを任意に固定した時に、XからYのn次対称積へのグラフの射の個数を係数として母関数を取ると、必ず有理関数になりそうである。その証明を完成させ、さらに分母分子の意味についても調べたい。 Hilbert 空間の有限個のベクトルは、内積によって半正値エルミート行列を定める。これは明らかに有限次元的な対象であるが、ナイーブにモチビックゼータを取ると有理的にならない。その有限次元的な性質を反映する「正しい」モチビックゼータを探って行きたい。半正値エルミート行列の様々な一般化行列式関数の不等式との関係についても探って行きたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究費の主な用途は、旅費である。モチビックゼータの考え方を様々な数学分野の脈絡の中で解釈するために、幅広い分野の研究集会に参加し、また他分野の良い研究者を広島へ招聘したい。現時点で、北海道大学の吉永正彦氏の招聘を考えている。また、日本大学文理学部や東京大学で月1度くらいのペースで行われている月曜特異点論セミナーは、これまでも本研究のヒントを与えてくれたり、また成果発表をしたりした場であり、平成25年度も時間が許す限り参加したいと考えている。春と秋に行われている日本数学会も、あらゆる分野の数学研究者が集まる場であり、本研究を進めるためには是非参加したい。 2月には鹿児島大学の與倉昭治教授、筑波大学竹内潔教授と一緒に鹿児島代数解析幾何セミナーを行う予定である。これは数学のあらゆる分野の研究者に談話会のようにそれぞれの分野の入門的な講義をしていただく研究集会で、本研究を進めるためには本質的である。特に本研究にかかわる講演者に対して旅費を支給する。また3月には岡山大学の山田裕史教授と、瀬戸内代数学セミナーというセミナーを立ち上げる予定である。これは広島大学と岡山大学・岡山理科大学の代数学者の交流を深め、本研究の推進に役立てようというものである。そのために必要な旅費も本研究費から支給する予定である。 また、必要に応じてコンピューターやプリンター、それに付随する消耗品を購入する。
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