研究課題/領域番号 |
24654010
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山口 孝男 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00182444)
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キーワード | スペクトル逆問題 / 熱核 |
研究概要 |
8月に開催された研究集会「確率論と幾何学」(京都大学)と幾何学シンポジウム(東京工業大学)において、これまでの断面曲率と直径が一様に有界な閉リーマン多様体のなすモジュライ空間における多様体の崩壊とスペクトル逆問題に関する研究(Yaroslav Kurylev, Matti Lassas 両氏との共同研究)について招待講演を行った。このときの討議などを踏まえ、この研究を断面曲率が下からのみ押さえられた閉リーマン多様体に拡張する問題を考察した。問題点の核心部分はTataru氏の一意接続定理をアレクサンドロフ空間に拡張することであり、空間の微分可能性の壁を打破するために、アレクサンドロフ空間を良いリーマン計量で近似する手法が可能かどうか検討した。来年度での継続課題である。またKurylev氏が9月に筑波大学を訪問した際に、今後の研究課題の進め方について議論した。その結果、断面曲率が一様に有界な完備非コンパクトリーマン多様体や、その極限空間において、熱核の局所スペクトルデータから空間を再構成することの可能性について大きな進展をみた。つまり、この場合ラプラシアンは連続スペクトルをもつにも関わらず、この逆問題を肯定的に解くことが可能であろう、ということが分かった。この方向での研究は、最終的には宇宙空間の数学的モデルである非コンパクト・ローレンツ多様体に対してスペクトル逆問題理論を構築したいが、それに向けた重要なステップになると思われる。今後のKurylev氏や他の専門家を交えた形で共同研究を進め細部を詰めて行きたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アレクサンドロフ空間に対するスペクトル逆問題についての進展という意味では、まだ時間が必要であるが、完備非コンパクトリーマン多様体に対するスペクトル逆問題の可能性など、本研究の構想に進展がみられており、おおむね順調に進展している、と思う。
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今後の研究の推進方策 |
今後もTataru氏の一意接続定理をアレクサンドロフ空間に拡張する問題に対して、幾何解析的手法を駆使してその可能性を考察していく。また断面曲率が一様に有界な完備非コンパクトリーマン多様体や、その極限空間において、熱核の局所スペクトルデータから空間を再構成する逆問題の一意性や安定性の問題を数学的に解決する。さらに、3次元リッチ流の退化とラプラシアンとスカラー曲率の収束と、その逆問題の可能性にも挑戦したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
3月中旬に代表者がロンドンのUCL(University Colledge London)のKurylev氏を訪問して共同研究を実施する予定だったが、今年4月から代表者の所属が筑波大学から京都大学に変わることになり、転出のための準備もありロンドン出張を断念せざるを得なかった。 今年度にロンドンUCLにKurylev氏を訪問して共同研究を実施する予定である。
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