本年度の研究により次のような重要な知見が得られた。 ・11月に本多正平氏(九州大学)を京都大学に招聘し、リッチ曲率が一様に下に有界なリーマン多様体の極限空間に関する数回の連続講演を実施した。その結果、このような極限空間は、その正則部分において弱い意味で計量がリプシッツであることが判明した。これは近年のコールディングとネイバーの仕事からの帰結である。これによりこのようなりッチ曲率が一様に下に有界なリーマン多様体の極限空間に対して、波動に関するタタルの一意接続定理を拡張する可能性が出てきた。 ・9月にヘルシンキ大学に10日間程滞在し、ラサス教授やクリレフ教授と共同研究を実施した。このときの議論により曲率の下限が-∞に発散するような特異的に崩壊していく曲面の上でシュレディンガー型作用素のスペクトル極限を考察することが、Comb-グラフに類似の量子グラフの分散的波動の伝搬に関する研究により、量子グラフに対応する弾性体モデルの数学的定式化が可能になることが分かった。これにより、曲率の下限が-∞に発散するような特異的な崩壊現象の解明が興味深い研究対象であることが判明した。
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