研究課題/領域番号 |
24654019
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松本 眞 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70231602)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 準モンテカルロ法 / WAFOM / 超一様点集合 |
研究実績の概要 |
Walsh Figure of Merit (WAFOM)は、Josef Dickの先行研究に基づき研究代表者らが導入した準モンテカルロ積分(QMC)を行うためのデジタルネット点集合Pに対してその評価値を与える関数であり、そのWAFOM値WAFOM(P)が小さければ積分誤差が比例して上から抑えられるというKoksma-Hlawka型不等式が成立している。研究代表者は、東京大学博士課程学生芳木武仁氏、修士課程学生大堀龍一氏らとの共同研究で、次の結果を得た。(1)WAFOM値の高速算法:ある多変数指数関数をPでQMC積分した際の積分誤差は、WAFOM(P)とほぼ比例する。したがって、低WAFOM点集合を探索するには前者を求めればよい。2011年に代表者が提案した離散フーリエ変換を用いるアルゴリズムではビット演算が必要だったが、前者の計算は実数演算だけで済むためにずっと高速に計算できる。実験により10倍を超える高速化が実現されている。(2)微分感受性パラメータ付WAFOMの導入。被積分関数の変数の数(次元)が大きくなると、Pを動かしてもWAFOM(P)は動きにくくなる。次元が20程度では、WAFOM値の小さい点集合を求めることが非常に困難であった。そこで、WAFOM値が動きやすくなるようにパラメータcを導入した。cが小さくなるとWAFOM値は動きやすくなり、高い次元でも低WAFOM点集合が見つかるようになる。払われるコストは、「被積分関数の高階導関数のノルムが増大するときに、積分誤差が増大しやすくなる」ことである。次元と点集合のサイズに対し、どのようにcを定めると良いかを定式化し、そのようなcを求めるアルゴリズムを提唱し、実装してその有効性を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
パラメータ付WAFOMを小さくすることによって探索された点集合は、指数関数・三角関数・有理関数など多くの関数で、実際に数値積分誤差を小さくすることが計算機実験で確認された。点集合Pのサイズ(サンプルサイズ)をNとしたとき、次元が4程度ではNのマイナス2乗、次元が10程度でも被積分関数によりNのマイナス1.3乗といったオーダーでの誤差の減少が観測された。従来のQMC積分の目標が「誤差をNのマイナス1乗にする」と言うものだった点を鑑みるに、この成果は「目標を超えた結果を得る」ことに成功したと言える。ここには数学的に不正確な点がある:従来のQMC積分の目標は、「有界変動関数」という広いクラスの関数に対して数値積分誤差を減らすことにあり、その場合の上限はNのマイナス1乗×logNの正冪乗であることが証明されているため、Nのマイナス1乗を目標とせざるを得なかったのである。それに対しWAFOMが対応する被積分関数は、「その高階導関数のノルムの増大度が、微分の階数の指数関数で押さえられている」ような狭いクラスの関数であるからである。したがって、実用上重要なことは、後者のような狭いクラスの関数の中に、工学的応用上重要な関数がどのくらい入るかを示すことにある。そこで代表者は共同研究者と、「多次元正規分布の累積分布関数」という工学的に最も広く用いられている数値積分関数に対して低WAFOM点集合が機能するかどうかを数値実験している。少なくとも相関行列が対角行列に近い場合には、低WAFOM点集合はおどろくほどうまく機能し、MathematicaやRといった標準数学・統計処理ソフトの標準アルゴリズムよりもはるかに高速に正確な積分を与えている。この理由により、当初の計画を超えた進展をしていると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
現在実験中の、多次元正規分布の密度関数の積分への数値実験をつづけ、あまざまな次元での計算実例を作り、Mathematicaの高次元積分アルゴリズムやQMCアルゴリズム、統計処理ソフトRのMiwaアルゴリズム、Genzアルゴリズム、QMCアルゴリズムと比較する。加えて、Niederreiter-Xing点集合との性能比較を行う。さらに、Walsh解析を行うなどの数学的手法で、低WAFOM点集合と多次元正規分布の相性の良さを解明する。デジタルシフトを用いてWAFOMによるQMC積分をランダム化することにより、誤差評価の信頼区間つきでの数値積分を行い、既存のソフトウェアと比較する。高性能性が確かめられたら、無料で使えるアルゴリズムでプログラムコードの形で公開・配布したい。配布のためには、C言語などの比較的低級な言語による実装をホームページもしくはGitHubで公開するほか、Rの無料ソフトを集めたホームページにRのライブラリとして公開するといった方法も考えられる。 現在はWAFOMについては点集合のみを考えているが、low discrepancy sequenceのように点列としてつくることが望ましい。さらに、マルコフ連鎖モンテカルロに用いられるように工夫された点列として生成することができればさらに応用が広がる。このためのヒントは、代表者とSu, Owen, 西村による共同研究にある「状態空間の次元に対して最適化された点列」にあると思われる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
WAFOMを用いたQMC積分について今年度後半に大きな進展があり、その成果発表をするのが次年度が適切な状態となったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
オーストリア・リンツで開かれる国際会議MCM2015に参加し、成果発表を行うための旅費に使用する。
|