研究課題/領域番号 |
24654021
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小澤 正直 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (40126313)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 量子集合論 / 量子解釈 / 数学基礎論 / 数理物理 / 哲学 |
研究概要 |
1. 量子集合論と量子力学の様相解釈との関係:有界観測可能量の全体が任意の von Neumann 代数Mで表現される一般的な代数的量子論における有界とは限らない観測可能量の集合SとMの状態Wについて,以下の3条件が同値であることを証明した.(1)状態Wの一つの極大存在可能量部分環に観測可能量の集合Sの任意の元がアフィリエイトする. (2) von Neumann 代数Mの射影束Qを論理とする量子集合論においてSに属する量子実数を定項とする 非有界量化記号を含むZFCの任意の定理が状態Wで成立する.(3) Sに属する任意の有限個の観測可能量の状態Wにおける結合確率分布が存在する.これにより,隠れた変数の存在を「定項の集合が ZFC 集合論の任意の定理を満たす」という論理学的条件で特徴付ける定理を完全に一般的な形で証明することができた. 2. 量子集合論に基づく量子測定理論の展開:与えられた状態Wで測定過程Mがある量子物理量Aの測定である条件を量子集合論に基づく量子物理量の値の相等関係から導いた.すなわち,次の3条件が同値であること証明した.(1) 被測定系と装置の合成系の初期条件において,測定前の被測定量の値と測定後のメーターの値が合成系の量子論理に基づく量子集合論において一致する.(2) 被測定系と装置の合成系の初期条件において,測定前の被測定量と測定後のメーターが量子同一性相関を持つ.(3) 測定の初期条件Wにおいて,測定前の被測定量Aと測定のPOVM F 量子同一性相関をもつ.これによって,合成系の量子論理に基づく量子集合論によって定められた条件が装置系の記述と独立に測定のPOVMだけで決まることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
量子力学は,数量概念に数学的非可換性を導入することにより,光量子の存在を始め,多くの現象の説明と予測に成功したが,その一方で,不確定性原理など経験科学における従来の認識論的仮説を大きく変更する必要性も明らかになった.とりわけ,量子物理量の値の実在論的解釈の問題は,幾多のパラドックスを生み,重要な未解決問題として残された.本研究は,この問題に数学基礎論の方法を導入して,量子集合論というチャレンジ性のある新しいアプローチを開拓して,従来,不可能とされた量子力学の実在論的解釈の実現を目指し,存在論的および認識論的な諸問題に対して数学的に厳密で系統的な研究方法の開発を目的としている. 本研究では,存在論的問題として「量子物理量の実在的解釈の可能性」の問題を扱い,量子集合論的な解決と量子力学の様相解釈で提唱されている解釈との関係を明らかにすることに成功した.この問題は,従来から隠れた変数の存在問題と呼ばれてきたが,様相解釈では,所与の状態において隠れた変数による実在論的解釈が可能な観測可能量の集まりを存在可能量部分環として定式化してきたが,本研究では,この定式化と量子集合論における「定項の集合が ZFC 集合論の任意の定理を満たす」という条件との同等性の証明に成功しと「実在論的解釈」という概念が「古典数学の成立」という論理学的概念に還元できることが示された.この成果は,これまで全く予想されてこなかった成果であり,大きな波及効果が期待される.一方,認識論的問題として,量子物理量の測定可能性の問題が扱われ,この概念が量子集合論の基本概念である,2つの量子実数の値の同等性の概念に基礎付けられることが示された.これらの成果は,本研究計画の中核的部分をなすものであり,研究は当初の計画以上に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,量子集合論で構成される実数論を量子力学の量子測定理論に応用することにより,量子測定の概念を含む量子力学の広い範囲の観測命題に量子論理に基づく統一的な解釈を導入する計画である.この解釈により,量子論理的解釈から自動的に古典論理的解釈の文脈依存性が導かれ,様々な文脈を統一する量子論理の役割を明らかにする.とりわけ,「測定の文脈」におけるボーアの意味での「実在の要素」を測定の初期状態に対する極大存在可能量部分環によって数学的に決定し,そのことにより,従来,同等とされていた量子物理量の同時決定可能性と同時測定可能性との概念的差異を明らかにする計画である.また,非崩壊解釈による観測問題の解明を目標として,これらの成果に基づいて,観測問題の解明を行なう.様相解釈では,従来から,非崩壊解釈と呼ばれる測定過程の解釈が行なわれてきたが,これは,対象と装置がエンタングルメントを構成する測定に限られていた.本研究では,量子測定理論に量子集合論に基づく実在論的解釈を導入することで,この解釈が完全に一般の測定に拡張できることを示す計画である.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度,国内の様相解釈研究者を招いて研究打ち合わせを実施する計画であったが,日程調整の都合で,今年度に実施することができなかったため,次年度に延期した.
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