従来,様相解釈に基づく量子力学の非崩壊解釈では,フォン・ノイマン型の測定過程を扱い,一般の測定過程を含んでいなかった。フォン・ノイマン型の測定過程では,被測定系と測定装置系の合成系の状態において最大エンタングルメント状態が生成されることに基づいて,測定後のメータ物理量から生成される極大存在可能量代数に測定後の被測定物理量が含まれることが示され,このことから,測定過程は,被測定物理量がメータ物理量の測定の文脈において実在の要素となる過程であると説明されてきた。しかし,この解釈には次の2つの問題点があった。第1点は,この解釈では,測定後のメータ物理量が被測定物理量の測定前の値を示すという解釈ができないことであり,第2点は,この説明の適用範囲がフォン・ノイマン型の測定過程に制限されていたことである。これらの問題を解決するため,以下の成果を得た。 1. 測定後のメータ物理量が被測定物理量の測定前の値を示す条件を明らかにするため,量子集合論で定義される量子集合の相当関係を利用して,所与の状態における物理量の値の同一性を定義し,一方の物理量を含む極大存在可能量代数に他方が必ず含まれることを証明した。 2. 物理量の測定概念を対応するPOVMがその物理量のスペクトル分解に一致する一般化測定に一般化して,それらの測定では,任意の初期状態において,測定前の被測定物理量の値と測定後のメータ物理量の値が一致することを証明した。 3. これらの成果から,測定後のメータ物理量から生成される極大存在可能量代数に被測定物理量が含まれることが示された。このことから,物理量の測定では,測定前の被測定量の値と測定後のメータ物理量の値が共に実在の要素であり,かつ,それらの値が一致することが示された。これによって,被測定物理量が測定値を実在の要素としてもつことを状態崩壊仮説なしに示す新しい非崩壊解釈が構築された。
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