前年度に得られた力学系の時系列解析の数学的基礎付けに基づき,今年度は生命科学における制御ネットワークの時系列解析によるダイナミクスの研究と,気象学における大気大循環の時系列に対する遷移的振舞いの研究を行った. 生命科学における制御ネットワークの時系列解析によるダイナミクスの研究では,数理生物学者の望月敦史氏(理研),Bernold Fiedler 氏(ベルリン自由大学)らによるネットワーク・ダイナミクスの理論と,代表者の位相計算的時系列解析の方法を融合させる数学的結果を得た.また,その有用性を実際に検証するために,サーカディアンリズムの遺伝子制御ネットワークの数理モデルに対して,ダイナミクスの構造がフィードバック・バーテックス・セットと呼ばれる一部のノードから得られた時系列データだけで復元できることを確認した. 気象学における大気大循環の時系列に対する遷移的振舞いの研究では,気象学者の稲津將氏(北海道大学)らと共同で,対流圏・成層圏における冬季の等圧面の観測データから得られた時系列データに対して位相計算的解析を行い,気象学者が予想している特徴的な気圧パターンの遷移を捉えることに成功した.さらに同様の解析を,GCM と呼ばれる気象学で標準的な大気大循環の数理モデルのシミュレーションから得られた時系列データに対しても適用し,類似の遷移過程が見られることを確認した.これは,大気大循環のような大規模で乱雑な振舞いを示す観測データから,一定の決定論的ダイナミクスの情報が得られたことを意味し,今後も更なる研究を継続する価値のある重要な結果であると考えられる. 以上のように,本研究はほぼ計画どおりに実施され,十分な成果が得られたといえる.なお,上記の結果については,現在,論文を準備中である.
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