研究概要 |
本課題は生物学研究と連携し, 細胞分子パスウェイネットワークの数学研究を実施している. 本年度は, がん細胞における分泌型基底膜分解酵素活性化パスウェイを取り上げた. がん細胞は無限増殖能, 運動能, 転移能を獲得して悪性度を増大する. 浸潤は転移の初期段階に現出する現象で, がん細胞がその表面に浸潤突起を形成し, 細胞外マトリックス(ECM)を分解して侵入することを指している. MT1-MMPは浸潤突起内に多数発現する膜タンパクであり, そのひとつの役割が浸潤初期段階で細胞外にある分泌型基底膜分解酵素MMP2を活性化することである. このメカニズムはTIMP2というもう一つの分子が介在した酵素反応で, MT1-MMP, MMP2, TIMP2の3分子の結合・解離パスネットワークとして生物学的シナリオが提出され, 実験データが蓄積されてきた. 最近, このシナリオに基づいて, 実験で観察, 測定した結合則と反応速度を使用した数理モデルが公理的に構築された. このモデルは数値シミュレーションによってキーパスの予測がなされ, その予測が実験によって検証されたことで, 医学的にも重要なものとして認められている. そこで本課題ではその数学解析を行うことにした. その結果, 質量作用の法則に基づく3つの質量保存則, 19のパスウェイを反応則によるグルーピングに基づく3つの反応則を演繹的に導出することができた
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
質量作用の法則に基づく3つの質量保存則と, 19のパスウェイを反応則によるグルーピングに基づく3つの反応則が演繹的に導出されたことは従来のモデリングとシミュレーションを数学解析によって厳密に裏付けたものであるばかりでなく, 複雑なネットワークからいくつかの数学法則を導出する方法を提示したもので, 研究は当初の計画以上に進展しているこれは従来のモデリングとシミュレーションを数学解析によって厳密に裏付けたものであるばかりでなく, 複雑なネットワークからいくつかの数学法則を導出する方法を提示したもので, 研究は当初の計画以上に進展している
|
今後の研究の推進方策 |
MT1-MMP, MMP2, TIMP2の3分子の結合・解離パスネットワークの分析をさらに進め, 比較定理によって解の漸近挙動を数学的に決定することを試みる. またこの分析を通して数値シミュレーションや, 実験で観察, 測定した結合則と反応速度によってモデルを公理的に構築することの正当性を明らかにし, 適用対象を広げることを考える
|