これまで、離散観測に基づくエルゴード的拡散過程モデルの適応的推定、適応的モデル選択問題、非線形判別分析等の研究に取り組んできた。本研究における離散観測は、刻み幅h→0、観測区間nh→∞(ただし、nはデータ数)の高頻度で長期間観測データだけでなく、一般のバランス条件 ( n×(hのp乗)→0、pは2以上の整数)の下での、中頻度データも対象にしている。エルゴード的拡散過程モデルのパラメータ推定には、ドリフトとボラティリティを同時に推定する方法と、収束率の速いボラティリティを推定した後にドリフト推定を行う適応的推定がある。数値実験において、同時推定よりも適応的推定による推定値の方が安定していることが確認された。適応的推定法には、大きく分けて、適応的最尤型推定法と適応的ベイズ型推定法がある。適応的最尤型推定法は最適化する際に初期値の選定が難しく、適応的ベイズ型推定法は計算時間を要するという問題がある。この問題点を解消する手法として、適切な初期推定量と伊藤・テイラー展開によって近似した擬似尤度関数に対してニュートン・ラフソン法と適応的推定法を複数回適用した、マルチ・ステップ推定量を提案し、バランス条件の下で漸近正規性およびモーメントの収束などの漸近的性質を示した。ニュートン・ラフソン法を1回実行したスコア法は、最適収束率をもつ初期推定量を選定すれば漸近有効推定量を導出する。この研究では、最適収束率ではない初期推定量であっても、その収束率に依存したステップ回数だけスコア法を適用すれば漸近有効推定量を導出できることを示した。独立同一分布モデルの場合、例えばモーメント型推定量を初期推定量としてスコア法を適用すれば、漸近有効推定量を求めることができる。しかし拡散過程の場合、最適収束率の初期推定量を導出するのは容易ではなく、最適収束率ではない初期推定量であっても漸近有効推定量を導出できる意義は大きい。
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