癌組織・鉄(Fe-C鋼)などの鉱物組織・高分子化合物のように、ミクロの組織構成が全体の性質を決めることはよく見られる。ミクロ組織の状態判別は、観察者の主観に任せられているのが現実である。判定結果は観察者の技量に大きく左右されるため、客観的な数値に置き換える手段が必要とされている。 パターン認識技術に基づくアルゴリズムによる画像処理の研究は、この種の技術の開発によく用いられているが、癌組織のように決まった形態を持たない組織に関しては、ライブラリーが大きくなりすぎるため、それに見合うハードウエアは非常に高価なものになってしう。 今回、組織判別に対して位相幾何学的な判定手法を用いたアルゴリズムを提案した。これは、癌特有の性質である「接触疎外の喪失」(正常な細胞は他者と接触すると成長をやめるが、癌化した細胞はいくらでも増殖する)を位相幾何学的な手法で読み取る、というものである。実際に癌組織に適用したところ、非常に良い結果が得られた。 原理的には、「組織構成要素の肥大による位相幾何学的性質の変化」を単純化された画像から読み取る、というものであるが、組織形成の仕組みが同じような構造物は他にも多くある。例えば、鉄(Fe-C鋼)は内部の炭素結晶の成長の仕方によりその性質が決まる。それらにこの判定法を適用し、判定法の有用性を確認すると共に、自己組織化の視点から数理的な考察を加えて行きたい。 本研究では、癌・鉄(Fe-C鋼)だけでなく、破断面の急速破断か疲労破断かの弁別、溶接部分の組織変化に対しても応用し、顕著な結果を得た。
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