無限次元の最適化問題は、ほぼ一般性を失うことなく、適当な測度の空間上の最適化問題とみなすことができる。また、測度は一般に絶対連続な成分と離散的な成分に分解することができる。本研究においては、コンパクトもしくは非コンパクトな空間上の符号つき正則ボレル測度からなるバナッハ空間を考え、この空間において定義される凸最適化問題が、どのような状況のときに離散測度を最適解として持つのか、また逆にどのような状況のもとで絶対連続測度が最適解となるのかを考察し、情報理論や制御理論を含む工学の諸分野における無限次元の最適化問題を統一的に眺めることを目的とした。
本研究の契機の一つとなったのが、情報理論における通信路容量の問題である。通信路容量とは雑音のある通信路において単位時間に送ることができる情報量の上限であり、確率測度として表現される入力分布と通信路により定義された相互情報量を適当な制約条件のもとで入力分布について最大化することによって得られる。制約条件によってはスカラー(一次元)通信路容量を達成する入力分布が有限個の点からなる離散分布となることが、複素関数論における一致の定理に基づいて説明されている。本研究においては、複素関数論に拠らず最適解の性質について明らかにし、ベクトル(多次元入出力)通信路に拡張することが大きな目標の一つであったが、この部分に関しては、半無限計画の理論をはじめとする無限次元における数理最適化の立場から数学的に証明することはかなわなかった。
最適解の性質を理論的に明らかにするという目標は達成できなかったが、通信路容量問題や最適制御問題を含む無限次元の最適化問題に対して、これらを符号つき正則ボレル測度からなるバナッハ空間上の最適化問題と捉え、切除平面法等のアルゴリズムを用いて数値的に最適解を求めることの有用性は確認できた。
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