測地流に密接に関係のある標構流 (frame flow) に関する研究を行った.この研究の発端となったのは,P. Foulon および B. Hasselbratt による最近の研究である.まず,彼等の行ったことを復習しよう.コンパクト負曲率リーマン多様体の測地流は,Anosov 流であることが知られている.したががって,その弱安定(ないし不安定)葉層構造が考えられる.これらの葉層構造は一般には連続でしかない.そして,それが十分連続であるならば,もとのリーマン多様体は局所対称でなければならないことが,Benoist-Foulon-Labourie の定理,および Besson-Cortois-Gallot の定理から従う.とくに,リーマン多様体が2次元である場合には,弱安定構造がC^2級であるのはリーマン多様体が定曲率である場合に限る(そして,この場合には,弱安定葉層構造は実解析的になる)ことが,上述の結果に先立つ Huder-Katok の定理,およびGhys の定理の帰結として知られていた.Foulon 氏と Hasselbratt 氏が行ったのは,この2次元の場合の結果のより簡単な別証明である.その別証明の中でもっとも重要な役割を果たしたのは,彼等が新たに導入した2次特性類であった.26年度は彼らの結果の高次元化を,当時わたしの指導下にあった大学院生,石塚雄真氏と試みた.高次元化に際しては,測地流に変わり標構流を考える.2次の(of degrre two) 2次 (secondary) 特性類の具体的な表示を得ることができる.これが石塚氏の修士論文の主定理となった.その他にも,関連したいくつかの発見があったが,残念ながら,Foulon-Hasselbratt の結果の高次元化を完成させるには,いまだに未解決な問題が残っている.
|