量子クラスター代数と量子不変量との関連を考察した。前年度までに得られた成果は、(古典)クラスター代数を用いたR行列(結び目群の解)の構成であった。クラスター代数における重要な操作は変異と呼ばれるが、この変異操作をある適当な向き付けされたグラフに有限回作用させることによって、結び目群の生成元に相当するものが得られる。また、グラフ上の変異操作が三角形分割におけるフリップとよばれる分割の取り替え操作としても解釈されること、フリップが3次元的に四面体の貼り付けとも解釈しうるとの観点から、研究代表者らが構成したR行列と双曲四面体との密接な関係が予想された。 そこで、本年度はクラスター代数の量子化を試みた。量子クラスター代数における変異は量子二重対数関数を用いて記述されるとの事実を用いることによって、量子R行列を量子二重対数関数を用いて具体的に構成することに成功した。このR行列は非可換演算子を用いて書き表されるのだが、パラメータqを1の冪根に取ることによって、有限次元表示を与えることが出来る。こうして得られた有限次元R行列は、KashaevのR行列とほぼ一致することを厳密に示した。 KashaevのR行列は、量子不変量と双曲幾何との関連を示唆する重要な研究対象である。本研究成果は、古典的なクラスター代数を用いた考察によって自然に得られる双曲四面体を用いた解釈が、量子二重対数関数およびKashaevのR行列にも適用できることを示しており、量子不変量と結び目の双曲体積との関係を予想する体積予想の研究においてたいへん重要な結果である。
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