本研究の目的は,電波帯域において急激な光度変動を起こす突発天体を探査し,その起源を解明することであった.その手段として次の二つの研究開発を行った:(1)ディジタル分光器の開発,(2)突発天体の発見速報システムの開発.まず(1)の分光器は,突発天体の検出に必要な信号処理と天体のスペクトル情報を取得する装置であり,(2)の速報システムは他の観測所による追観測を図るものである. 初年度は研究対象である突発天体と同様の性質をもつCrabパルサーを観測したが,その電波パルスを検出することができなかった.本年度でその原因を究明した結果,電波受信機の不具合が見出され,修理を行うとともに感度向上を図る受信素子を導入した.それを踏まえて(1)の分光器とスペクトルアナライザを用い,装置を確実に実証できるよう銀河系内の中性水素を観測した.その結果,期待通りに中性水素スペクトルを検出し,改良した受信機と分光器によって正常にスペクトル観測が行えることを実証し,同時に銀河系の回転速度を見積もることができた.これによりCrabパルサーの観測と突発天体の探査を行うことが可能となった. また(2)の突発天体の発見速報システムによって,光度変動の緩やかな天体を発見した.突発天体のように急激な変動を示す天体はまだ発見されていないが,その原因を過去の観測結果から追究した.その結果,突発現象はその生起確率が極めて低く,発見には多くの観測時間と掃天面積が必要であることがわかった.同時に過去に発見された突発天体WJNJ1443+3439は,その起源が未知の活動銀河核によるバーストか,あるいは褐色矮星等からのフレアであることが示唆され,突発天体の起源解明に一歩近づくことができた.この研究によって今後の突発天体探査が促進され,宇宙における未知の現象が明らかになっていくだろう.
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