研究課題
将来のスペース太陽観測に必須となる、サブ秒角分解能を持つWolter X線ミラーを、(1)コヒーレントX線を用いた精密形状計測、(2)精密コントロールされた金属コーティングによる形状補正と最終表面創成、という全く新しいアプローチによって実現することをめざし、そのための基幹技術を2年間をかけて獲得する。そのためWolter Iミラーの試験ピースを製作し、実際にSPring-8シンクロトロン放射光を用いて表面形状の計測を行ない、これまでに1次元集光ミラー(Kirkpatrick-Baezミラー)で確立した形状測定技術を回転体表面をもつWolter Iミラー測定に適用し、計測能力を検証する。本年度は、試作ミラーの表面形状のパラメータを決定し、また、SPring-8のX線ビームに対してミラーのアライメントを取るのに必要な、ミラーピース上の切り欠き構造などを、阪大グループと協力して決定した。一方、SPring-8で確実なX線計測成果を出すのに必要な、試作ミラー表面の加工残差に対する条件を検討し、テストピースに対する研磨試行を行なうことで、研磨条件決定のためのデータを得た(これの内容は、「現在までの達成度」の項を参照)。これにより、次年度に試作ミラーの製作およびSPring-8でのX線計測を行なう上での準備を整えた。なお、当科研費は、試作ミラーの製作に充当するものであるため、本年度は当科研費(直接経費)の執行はなく、全額を次年度に使用する。
3: やや遅れている
本年度、SPring-8でのX線放射光での計測に用いる試作ミラーの製作検討に並行して、X線計測手法の見直しと具体化、ならびに計測を行なう上で必要なミラー表面の加工残差の検討を進めた。その結果、(a) 形状誤差として10 nm rms程度の精度を持つこと、かつ、(b) 形状誤差(加工残差)が短周期(5 mm程度)の周期成分を持たないこと、が、初回のX線計測で確実に計測成果を出す上で必要であることが判明した。そのため、試作ミラーの研磨を行なう前に、特に(b)のための条件出し(研磨機ヘッドの回転数や送り速度の最適条件出し)のため、当科研費とは別経費で、平面テストピースに対する研磨試行を行ない、加工表面残差のデータを得た。この条件出し作業が入ったため、当科研費を用いた試作ミラーの製作およびSPring-8でのX線計測は次年度に行なうこととした。
本年度に得た、異なる研磨条件に対する加工表面残差のデータを吟味し、試作ミラーに適用する研磨条件を決定し、試作ミラーの製作(研磨加工と金属コーティング)を行なう。これをSPring-8 BL29-XULのコヒーレントX線を用いた計測に供し、表面形状を測定する。得られた形状測定結果と、ミラー製作時の測定結果を対比し、整合性を確認し、X線形状計測性の評価と改良点の洗い出しを行なう。また、確認した形状誤差から、形状補正に必要なコーティング厚プロファイルを決定する。この補正プロファイルのコーティング可能性を、蒸着装置(キヤノンを想定)の性能を踏まえて評価する。これらの計測・検討によって、要素技術を押さえ、将来の衛星搭載に向けた、超高精度X線ミラー製造手法の基盤を確立する。
本年度執行しなかった研究費(直接経費)は、次年度の試作ミラーの製作に投入する。また、次年度経費と合わせ余裕があれば、形状補正のためのコーティングを実施する。
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Proc. SPIE
巻: 8443 ページ: 84430A (11pp)
10.1117/12.926850
http://www.isas.jaxa.jp/j/researchers/symp/sss13/paper/P2-147.pdf