研究課題/領域番号 |
24654058
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
角野 浩史 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90332593)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ヘリウム / 同位体 / 中性子 / 質量分析 / J-PARCパルス中性子源 |
研究概要 |
本研究は、He同位体比(3He/4He比)測定に用いる希ガス質量分析計の徹底的な改良により、3He/4He比の絶対値を、従来をはるかに超える0.1%以下の確度・精度で決定可能な分析システムを構築する。これを用いて、現在J-PARCパルス中性子源で行われている中性子寿命測定実験で、中性子数を決定するために用いる検出器内のHeガスの3He/4He比を精確に求め、中性子寿命の高精度決定に貢献することを目標とする。 本年度は、既存の質量分析計の3He/4He測定の誤差の主要因を特定するために、様々な条件でHeスタンダードガス(HESJ)の測定を行った。その結果、質量分離用の磁場が室温に大きく左右されることが分かったため、電磁石に保温シールドを設置し温度の安定化を図り、さらに高分解能・高安定度の磁束計(Group 3社製テスラメータDTM151-PG)を導入し、その測定値を元にフィードバックをかけるよう磁場制御用のプログラムを書き換えた。また磁場の変動の3He計数値への影響を最小限にするため、イオン光学の調整を3Heに最適化した。 イオン光学の調整の結果、3He/4Heの変動を0.1%に抑えるために許容される磁場の変動幅が、調整前の <4ppm から 5-15ppm と拡がった。磁場そのものの変動も、温度の安定化と磁束計を用いたフィードバックにより、30ppmから8ppm程度と、大幅に小さくなった。これらにより、HESJの一回あたりの測定精度は0.08%となり、目標である0.1%以下を達成できた。 また平行して、新規に導入した高確度・高精度絶対圧力計(MKS社製バラトロン真空計)を用いて、3He/4He測定の一次標準として用いる校正用Heを、高純度3Heと高純度4Heの混合により、1E-7~1E-5の3He/4Heの範囲で調整する準備も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
He同位体比測定用の質量分析計の改良は、上述の通り目標通りの性能を達成できていることから、予定通り完了したと言える。3He/4He比の一次標準となる校正用ガスの調整は未だ行っていない。これはガス混合に用いる高純度3Heの手配が滞っているためであるが、ガス混合のための真空ラインと圧力計の準備は整っているので、入手次第すぐに行うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度のイオン光学調整の折に、質量分析計による3Heの計数率が、検出器である二次電子増倍管の配置に大きく左右されることが分かった。今年度はこれを踏まえ、予算的に余裕があれば、入射イオンの位置に感度が左右されないタイプの二次電子増倍管を導入する。 また今年度はJ-PARCにおける中性子寿命測定も複数回予定されているので、そのターゲットガスの3He/4He測定を行う。今年度中にはJ-PARCにおける中性子崩壊事象の計数誤差も1%を切っていると予想されるので、既に0.1%以下の精度が達成できている3He/4He分析の結果と合わせて、中性子寿命を0.1%の精度で決定し、ビッグバン元素合成などの原子核・宇宙物理学における標準モデルに、より確実なパラメーターを提供する。 また本研究の地球惑星科学への応用として、大気Heの3He/4He比もこれまでの報告値を上回る精度で決定するとともに、世界各地から大気試料を取り寄せ、地球規模での3He/4He比の分布を調べる。また国立極地研究所保管の、過去30年間分の南極上空大気も測定し、3He/4He比の経年変化を調べる。これらの結果から大気Heの、3He/4He測定の標準試料としての妥当性を検討し、大気中Heの同位体比の時空間的変動が検出された場合は、それを大気循環モデルと対応させ、地球内部から全地球的に放出されるHeフラックスに人間活動により加えられたHe量を求め、化石燃料の採掘が大気の組成に及ぼしている影響を定量化する。 さらに応用として、地下水試料に含まれるトリチウム(半減期12.3年)が放射壊変して蓄積した3Heを精密に定量することにより、トリチウム-3He年代を高精度に測定するシステムを構築する。これを様々な地域、とくに福島第一原発の事故による放射能汚染が深刻な地域の地下水の分析に用いることにより、放射能汚染の実態の水文学的理解に貢献する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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