昨年度、レーザー装置のある日本原子力開発機構にラドンソースを持ち込めないことが判明したので、ラドン濃度の高い神岡坑内の空気を冷却活性炭に濃縮し、そこからラドンを脱離させる装置の開発を行った。そして、まずは原理検証のため効率は劣るものの、より簡単な2光子励起を利用してイオン化を試みた。結果は空気由来の水和物によるバックグラウンドに埋もれ、ラドンの質量数222の位置にピークは見られなかったが、基本的な測定系の構築は完了できた。そこで、キセノン中のラドンの代わりに、同じく希ガスの組み合わせで、不純物としてKrを含むアルゴンでの実験に切り替えた。1kVの電場を加えた電極プレート間に、~10 ppm Kr 含有の大気圧 Ar を流しながら212.6 nm(5 ns pulse)を集光し、Kr を(2γ+γ)共鳴イオン化させたところ、電極に陽イオンによるシグナルを確認できた。つまりレーザーによって共鳴イオンされたKrの収集に成功した。 一方、昨年度開発に成功した1光子励起によるラドン共鳴イオン化のための145.2nmの高出力VUV光を生成するパルスレーザーのさらなる安定化に取り組んだ。具体的にはレーザーへの入力光を安定させるため、共振器なしでの光パラメトリック発生(OPG)光学系の開発に取り組み、BBO結晶4つに半導体レーザーを反射なしの一方通行で照射させることにより、212.6nmの非常に安定なVUV光を作り出すことに成功した。 本研究によって、共鳴イオン化によって原理的に希ガス不純物を取り除けることを示し、安定に長時間ラドンの共鳴イオン化を実現できる環境を整えた。
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