研究課題/領域番号 |
24654064
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 米子工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小林 玉青 米子工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (60506822)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非摂動くりこみ群 / 量子散逸系 |
研究概要 |
非摂動くりこみ群(Non-Perturbative Renormalization Group=NPRG)の手法により、ミクロスケールの自由度とマクロの物理現象の間の繋がりを摂動論に依らず定式化するマルチスケール手法の理論的構築を行った。 くりこみ変換は有効相互作用のスケール変化を表すが、ミクロの無限自由度から非摂動的な効果を十分引き出すためには有効相互作用空間を適切に定義しなければならない。どのような有効相互作用空間が本質的であり、その重要な相互作用空間を記述できるNPRG方程式はどのような形式であるかを本年度は詳細に検討を行った。 特に具体的にIRG(Iteratnion RG、行列積で定義されるくりこみ変換)について理論的定式化に取り組んだ。IRGでは、無限次元のヒルベルト空間に広がった相互作用空間のうち、本質的な部分空間のみを取り出す手法を用いた。本年度は、エネルギー散逸(摩擦)のある量子力学系に対して、IRGを定義し、実際の数値計算まで行うことができた。摩擦のある量子力学系は、相互作用のマルチスケール変換によって、マクロに摩擦を生じる起源となっていると考えられる。また量子情報分野などでの応用を考慮すると、波束にはたらくミクロ摩擦を如何に抑制するかが技術的課題であり、この点に対して大きい寄与が期待される。ヒルベルト空間を摩擦がない場合の基底状態と第一励起状態に限る基底状態近似を採用すると、有効イジング模型として解析できる。IRGの実行にあたっては、相互作用を表す行列の初期値を得る際に数値多重積分が必要である。量子力学系においては、高振動数の状態まですべて足し上げなければマクロの正しい物理は得られないため、数値多重積分としてはモンテカルロ積分を用いた。結果として、パラメタを変化させながら統計誤差を考慮して求め、他の手法と比較することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はマルチスケールに対応出来る非摂動くりこみ群の理論的な定式化が目的であり、摩擦のある量子力学系に対するIRGについては、その第一目標を達成し、数値計算も行うことができた。その結果、他の手法と比肩する結果を学会・査読付論文で発表できたという点で、IRGを用いた研究は当初より大きく進展しているといえる。この結果は、大規模なモンテカルロシミュレーションの結果と比べて遜色のないもので、しかも我々のマルチスケールくりこみ群の手法では、かなり少ない計算機資源および計算時間しか用いていない。 しかしながら、連続自由度を持つ量子力学・場の理論において、有効相互作用のスケール変化を表すもう一つの非摂動くりこみ群方程式である汎関数微分(FRG)方程式については、本年度は具体的な解析計算・数値計算をするところまでは至らなかった。従来の近似だけでは有限温度・有限密度QCDといった系のマクロの現実を表現するには十分ではなく、有効ポテンシャルを解析する新しい手法を開発していく必要がある。 以上のように、IRGに関しては大きく進んでおり、FRGが後れをとってはいる。けれども、連続自由度の無限大の困難を考えると、FRGを用いたマルチスケールでの計算の遅れは当初から予想されうることであり、研究全体としては概ね順調な進展がみられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず、本年度行ったマルチスケールアプローチの手法の理論をもとに、引き続き摩擦のある量子力学系への応用を行う。量子力学系・場の量子論においては、確率の低い、どんな高振動数の状態についても、現実の物理に寄与する。このことを考えると、本年度行った本質的な自由度の限定方法では、モデルが現実に十分に即していないと考えられる。量子力学系よりもさらに次元の高い量子論への応用も考えると、他の手法を凌駕する精度で量子力学系においては計算ができる必要がある。そこで、1つには離散量子力学についてこれまでの定式化を見直し、より高い精度で計算機で取り扱えるようにしていく。また一方では、IRGについても、相互作用を表す行列を直接モンテカルロ乱数として生成し、多重数値積分への寄与が大きい自由度をシステマティックに抜き出せる数値計算手法の開発を進める。 また、FRGについては、有効ポテンシャルを解析する新しい概念である弱解や、自己無撞着方程式を利用した手法が有効であると考えられる。これらの新しい非摂動くりこみ群の概念・手法をマルチスケールに適用していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はくりこみ群計算専用計算機を本研究費によって導入し、既に数値計算結果が得られ始めている。したがって本年度は更に大規模な数値計算データの処理・管理が必要とされる。計算データをもとにした学術的発表の準備も進めなければならない。そのため、数値計算データ処理用のパソコン一式、データバックアップ用のRAIDが必要となる。 摩擦のある量子力学系については、既に第一段階の具体的な結果が得られ始めているため、各種学会・研究会・講演に赴いてその結果を問う予定である。また、もともと非摂動くりこみ群を専門とする研究者は世界的に見ても多くはない上、本研究代表者の所属組織異動により、本研究計画実施のための活発な情報交換や議論には、本研究申請時点より更に旅費が不可欠となっている。また、同様に本研究費申請時点から、本研究者を取り巻く研究環境が変更され、データ処理に人的な資源を割くことが難しくなった。したがって、謝金として計上されていた金額は、研究の情報収集のために主に用いる予定である。
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