研究概要 |
前年度までに理論的構築を行った、非摂動くりこみ群(Non-perturbative Renormalization Group=NPRG)の新しい手法を具体的な系に対して適用することに取り組んだ。 主なターゲットとしては、量子散逸系への応用を行った。ここでは、「摩擦」のミクロの起源の量子力学的な探索を目的とする。日常生活においてもありふれたものである「摩擦」は、ミクロでの非最近接相互作用に起因するとされるが、ミクロの物理を記述する量子力学から、如何にして古典力学で記述されるマクロの「摩擦」が生じるかはいまだ明らかになっていない。 NPRGによる解析においても、非最近接相互作用があると、くりこみ変換後のマクロスケールでは、有効相互作用のはたらく距離がすぐに無限遠まで到達してしまい、くりこみ群による解析を困難にしてきた。 本研究代表者は、前年度までに発表した論文 A Finite-Range Scaling Method to Analyze Systems with Infinite-Range Interactions, K-I. Aoki, T. Kobayashi and H. Tomita, Prog. Theor. Phys. 119-3 (2008)509. 及び Phase transition of the dissipative double-well quantum mechanics, Ken-Ichi Aoki, Tamao Kobayashi, Mod. Phys. Lett. B, 26-30, 1250202(14p) (2012)において、NPRGと新しいスケーリング則を組み合わせたくりこみ群の枠組みを提唱した。本年度は、この手法を量子散逸二重井戸系に応用し、ミクロのエネルギー散逸がマクロの摩擦を生み出す量子古典相転移の解析を定量的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、前年度に理論構築を行った、NPRGと新しいスケーリング則を組み合わせたくりこみ群によるマルチスケールアプローチの手法(Iteration RG=IRG)を、摩擦のある量子散逸系へ適用してきた。 量子力学系は、無限自由度の系であるが、数値計算上、計算時間や計算リソースの制限があり、本研究代表者による前年度の論文 Phase transition of the dissipative double-well quantum mechanics, Ken-Ichi Aoki, Tamao Kobayashi, Mod. Phys. Lett. B, 26-30, 1250202(14p) (2012)においては、本質的な自由度のみに制限した計算を行った。すなわち、古くから指摘されているように二重井戸ポテンシャルとイジング模型の間の双対性から、自由度をエネルギーレベルの低い2自由度に限って計算を行っている。得られた結果は、他の大規模な格子シミュレーション結果と比べても、妥当なものと考えられる。しかしながら、まだまだ本来のIRGの持つ精度は十分に発揮されているとは言えない。 そこで本年度は実際の数値計算であるモンテカルロ積分において、より多重積分への寄与が大きい自由度を抜き出せる手法を開発した。物理量を記述する有効相互作用は一般に、非エルミート行列で表される。具体的には、この行列のジョルダン固有値を解析する。これにより精度よく、相転移点を求めることが可能になることが、これまでの計算結果により示唆されており、最終結果を高精度で得るにあたり、一定の見込みがある。 また、近年提唱されている新しいNPRGであるDomain Wall RG=DWRGの手法が2次元イジング模型について非常に有効であることが判明しつつあり、その応用として、量子散逸系に対するアプローチも視野に入れつつある。
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