マルチスケールでの物理現象の非摂動くりこみ群による統一的な解明を目的とした。従来、各スケールの物理現象に対して、個別の理論や解析手法が提唱され、各学問分野でタコツボ化して発展してきた。そこで、本研究では、ミクロスケールの自由度からマクロスケールの物理現象を横断的に取り扱う手法を開発した。具体的には、非摂動くりこみ群の手法を用いてミクロとマクロを繋ぐ自由度の変換を定式化する。それにより目的とするスケールの物理を定量的に、かつ摂動論に依らずに解析することが可能となった。 本研究においては、行列積で定式化される新しいくりこみ変換の理論的定式化と、新しい物理現象に適用することに重点を置いた。非摂動くりこみ群の手法では、ミクロの無限自由度の中から、マクロで本質的な有効相互作用を取り出すことが重要である。本研究では、新たに発見したスケーリング則を応用することで、新しいくりこみ変換の枠組みを開発した。この新しいくりこみ変換は特に「量子散逸系」に対して有効である。 「摩擦」は、ミクロの量子力学における非最近接相互作用に由来するとされるが、如何にしてマクロ古典力学の摩擦が生じるかはこれまで明らかになっていなかった。従来の取り扱いでは、ミクロに非最近接相互作用が存在すると、マクロスケールにおいては、有効相互作用のはたらく距離が無限大になってしまい、解析が困難なものとなっていた。本研究では、二重井戸量子力学系に対して新しいくりこみ群の枠組みを適用し、イジング模型との双対性を利用した二状態近似はもちろんのこと、より数値多重積分の寄与が大きい本質的な状態を抜き出して数値計算を行った。それにより、小規模の計算コストで、大規模シミュレーションと比較出来る高精度の結果を出すことが出来、ミクロからマクロの「摩擦」の物理が如何にして現れるかを「量子古典相転移」のパラメータとして定量的に追うことに成功した。
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