研究課題/領域番号 |
24654068
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
石野 宏和 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (90323782)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 超伝導検出器 / ニュートリノ |
研究概要 |
本研究では、NbとAlとInを組み合わせた太陽ニュートリノ検出用MKIDの開発を目指す。これら3種類の異なる金属は全て超伝導体となる。それぞれ超伝導転移温度が異なり、Alが3つのなかで最も低い。よって、Nb/Al/Inという形で挟み込むことにより、クーパー対解離によって生じる準粒子を超伝導エネルギーギャップの谷に閉じ込めることができ、感度を増やすことができる。またInの中にはIn-115が含まれ、それが電子ニュートリノを吸収するとSn-115の励起状態に変化し、γ線を放出する。電子事象とγ線の同時計測を行うことによりバックグランドと信号を区別することができる。本研究では2つのステップが存在する。一つ目は、AlとNbを組み合わせたMKIDの開発であり、もう一つはIn標的をいかに接着するかである。今年度は主に前者について研究を行った。二つの金属を組み合わせる前にMKIDのデザイン自身を決定するために、NbのみからなるMKIDを作製した。Nbの転移温度は約9Kで、液体ヘリウム減圧システムで容易に性能を測定できるからである。デザインを変えたものと歩留まりを仔細に調べることにより、デザインと作製方法の最適化を行った。その結果歩留まり95%以上を達成し、またMKIDの共振器の性能を表すQ値も20万近いものができ、十分な性能をもつことが分かった。MKIDの性能の温度依存性を測定し、それを理論曲線と比較することによって、検出器の振る舞いの理解を得て、kinetic inductanceの大きさを測定する方法を確立した。この技術に基づいて、AlとNbを組み合わせたMKIDの作製にも成功した。Nbに対するAlの量の最適化をkinetic inductance を測定することによって行った。また、Inをはりつける方法については現在も試行錯誤しており、次年度の大きな課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NbとAlを組み合わせた超伝導検出器であるMKID (Microwave Kinetic Inductance Detectors)の開発は順調に進んでいる。共振器の性能として、共振ピークの鋭さを表すQ値がある。本研究うで必要なQ値は6万以上である。Nb/Alを組み合わせたMKIDの実機を作製し、評価したところQ値は最大で10万を達成し、目標値はクリアしたといえる。また、Q値と共振周波数の温度依存性を測定することにより、BCS理論と比較し、力学的インダクタンスの量を求めた。その値も概ね予想値と一致している。MKIDにアルファ線を照射することにより、シリコン基板からのフォノン信号を確認した。これは、MKIDに付与されたエネルギーが基板に逃げてしまうことを意味している。そこで、酸化アルミを下に敷くことにより、フォノンブロックを試みた。その結果、基板からのフォノン信号はなくなることを確認した。アルファ線による時間応答は、共振器の帯域幅で説明がつくことがわかったため、Alの準粒子寿命が予想よりも短いことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度の結果を踏まえてつぎの2点について研究する。一つは、Alの準粒子寿命が予想よりも短いために、Alの結晶構造を調べることである。現在スパッター装置を用いてAl薄膜を形成しているが、結晶性がよくない場合は、蒸着装置や単結晶薄膜装置の利用も考える。また、現在He-3 ソープション冷凍機を用いて0.3Kで測定している。より低温冷却(0.1K)が可能な希釈冷凍機を利用して測定する予定である。二つ目は、インジウム標的をMKIDにはりつけることである。低融点半田を用いて標的を張り付ける予定であるが、その技術を各専門家と議論しながら開発する。標的がうまく装着された場合は、γ線源を用いることにより、コンプトン散乱から太陽ニュートリノ模擬事象をつくり、検出原理を検証したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
検出器作製に必要なアライナーマスク2つ(40万円)、と作製・測定補助に必要な人材を雇うための人件費(60万円)に使用する。また、国際会議・学会発表に必要な旅費(40万円)を計上する。
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