研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究は、質量密度の勾配を持つ物質中に偏在する新しい格子振動状態として理論的に提唱された「グレードン」(J. J. Xiao, K. Yakubo and K. W. Yu: PRB 73 (2006) 054201, 224201)の中性子散乱による実験的検証に挑戦することを目的とする。Si-Ge 混晶系、浮遊帯域法合成によって元素置換した遷移金属酸化物、高電圧により原子拡散が起きるイオン伝導物質などが一方向に質量勾配が存在する物質と考えられる。反転対称性の破れにより格子振動の進行波異方性や偏在が期待できるグレードンを、物質内部まで到達してフォノン励起を観測できる中性子散乱によって検証したい。さらに勾配磁気系におけるスピンダイナミクスでのグレードンの検証に発展させる。Si を濃度傾斜させてドープした Ge 単結晶を東北大学金属材料研究所グループより提供を受けており、本研究課題を本格開始する以前の試験研究を発展させたかったが、日本原子力研究開発機構の研究炉が再稼働せずに、研究代表者のグループが所有する中性子散乱装置で計画した実験ができなかった。そこで他の候補物質を含めた試料内部の質量勾配評価用X線回折装置の整備に重点を置いた。格子定数の決定に加えて、含有元素量の情報が得られる蛍光X線エネルギー分光が期待できるシリコンドリフト検出器を既存のX線回折装置に導入した。また本課題に関連する結晶格子振動研究として、カゴ状物質DyB6における非調和フォノンの放射光X線非弾性散乱による研究成果を論文として取りまとめ、リエントラント金属-非金属転移を示すPr1-xCexRu4P12の結晶構造不安定性についての放射光X線回折研究を推進し、一部を日本物理学会にて口頭発表した。
3: やや遅れている
上述のように研究炉中性子散乱施設の再稼働が遅れており、当初計画していた実験が実施できていないため、進捗状況は若干の遅れがある。一方、X線回折による試料評価や本研究課題の候補物質について関連研究者と協議し、典型例として最適な物質系を検討している。またJ-PARC加速器パルス中性子散乱施設での実験を行って経験を積み、本課題を研究炉でなく加速器中性子源で実施する可能性を検討している。これら平成25年度以降の準備を進めており、問題点の解消に努めている。
研究炉中性子散乱施設の再稼働を期待しながら、J-PARCの加速器中性子源を用いた強相関電子系物質の磁気励起の測定を進めてきた。そこで装置の性能について情報を得たことにより、本課題の研究目的とのマッチングを検討することができた。これを踏まえて、次年度以降の研究対象候補物質に対する中性子散乱実験を平成25年度後半に実施する計画を立てる。並行してX線回折試料評価を進める。また本課題に関連する結晶格子振動研究として、カゴ状物質TbB6における非調和フォノンの可能性に着想しており、H24年度までにまとめたGdB6とDyB6での研究成果の普遍性を検証する。こちらも大学内のX線回折装置によってソフトフォノンによる散漫散乱の研究を開始し、SPring-8での高輝度X線を用いた非弾性散乱実験への展開を計画する。
まず、シリコンドリフト検出器によるX線回折を用いた試料評価法を実現する。質量勾配を反映した格子定数の物質内変化は既存の回折計により測定できるので、さらに蛍光X線測定によって複数の含有元素の相対濃度の物質内変化を知ることを目指す。具体的には、東北大学ラジオアイソトープセンターの協力により提供いただけるイオン濃度勾配をもつ TlBr 単結晶を対象とする。この物質は放射線用シンチレーター材料に適用されるイオン伝導体で、バイアス電圧のもとで Br- イオンと Tl+ イオンが両電極に移動し、一端の Tl 高濃度領域から他端の Br 高濃度領域まで勾配が生じると報告され(K. Hitomi et al.: IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE 58 (2011) 1987)、非一様勾配系の典型物質と期待できる。本研究でこの物質のX線散乱による評価と加速器源の中性子非弾性散乱による格子振動の観測に着手する。X線散乱での評価をより精度よく実施するため、試料の局所的な情報を得るために試料位置の微調整と細いビームを用いた実験を考えており、現有X線源から取り出す単波長X線強度を確保するためのモノクロメーターと試料用ゴニオメーターの導入を検討する。なお次年度使用額は、試料位置調整機構を現有X線回折装置とより効果的に組み合わせることを次年度に実施するために生じたものであり、平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (13件) 備考 (1件)
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